Blog135 陣内秀信・稲益祐太編著「アマルフィ海岸のテリトーリオ:大地と結ばれた海洋都市群の空間構造」(鹿島出版会 2025.1.30)を読んで

 

 2025年1月19日(日)、伊豆稲取温泉に家族旅行する前日、本書が贈られてきた。2009年、織田裕二・天海祐希を主演に全編イタリアロケしたサスペンス映画「アマルフィ女神の報酬」の舞台装置を解説してくれるかの如き美しい表紙を見て、「はじめに」と「おわりに」を読み、陣内先生に御礼の葉書を書いて後、本書を伊豆旅行に持参してゆっくり読むことにした。幸い、この旅は「特急サフィール踊り子号」というアマルフィ海岸の如きダークブルーの車体と乗り心地から、車窓の風景も伊豆の青い海と空に似て、本書を読むにふさわしいかと考えてのことであったが、実際に熱海を過ぎて宇佐美から下田までの海岸線は本書のスケールと同じであったが、全く「似て非なるもの」であった。

 本書の調査、海岸とテリトーリオについて読み始めて分かったことは、絶壁沿いの高密度住宅群・教会・商店・広場・ドーモ・道路・小路・内外階段・バルコニー・ベランダ等々、一体化した立体起こし図、俯瞰図、詳細な断面図や平面図に写真を挿入しての頁をめくる度に、限りなく世界遺産都市としての歴史と宗教と日常の生活感覚を与えてくれる本書の密度は、迷宮都市アマルフィの実態を伝えてくれる。

 頁をめくる度に、伊東を過ぎ、東伊豆海岸線の漁港や海岸の砂浜等、遠くに見える伊豆七島の風景は同じに見えるも、都市国家の中心としてのアマルフィ地方では水力発電所や製紙工場、製鉄所まで建設された程の傾斜地で、伊豆よりは大きくて深い谷や河川が連なっている。しかし山奥の山脈には湧水や集落のあるところは、伊豆も同じように思われるが。

 伊豆高原駅は、1970~2020年迄の50年間、私の伊豆山荘の最寄り駅で、城ヶ崎や八幡野漁港は魚釣りの拠点で、季節毎にこの地に遊んでいたから、この別荘地はアマルフィと全く異なる景観であり、テリトーリオであることだけは本書で十分に伝えられた。

 陣内先生は地元のアマルフィ文化歴史センターの支援を得たというが、その分は本書の出版で十分に還元された。次なるステップで、地元の新鮮な食材とワインについての報告が楽しみである。伊豆稲取の銀水荘で出された「金目鯛の姿煮」や地酒の「大吟醸  銀の海」は絶品であり、この点での日本はイタリアに十分「太刀打ち」できると確信した。

 海洋都市国家として世界史的スケールで蓄積されたアマルフィ海岸周辺諸都市の実態を15年間(1998-2003、2010-2017)も調査あれた成果を東伊豆の集落と比較すること自体荒唐無稽に思われるであろうが、20~30年前にイタリアの留学生を山荘に案内したとき、伊豆は自分の田舎と同じ空気で、とても喜んでくれたことを想い出したからかもしれない。

Blog134 家族旅行で稲畑耕一郎先生と再会

 2025年の稲畑先生の賀状に「喜寿になって、中国の大学に3年、栄誉教授として勤務することになったので、3月から当分、中国滞在」との知らせ。

 45年前の1979年末、私の中国滞在中に家族3人(妻と小学生の娘と息子)を中国まで連れてきて下さって一週間、その上、先生だけは2ヶ月も中国に滞在して私の支援をして下さった当時を思い出す再会の機会、1月20日(月)の夕食を横浜のSCANDIAで、45年ぶりに稲畑先生御夫妻と私の家族全員6人の楽しい夕食会をもつことができた。

 何しろ当時の中国は自立更生時代、貧しいながらも日中友好で近代化を目指す中国と近代化の結果、熱くなる大都市への危機感をもつ日本の都市環境学への警告を得るための交換学習の日々であった。今日の地球環境問題を考えれば、今一度、昔の中国のあり方を再考する時に思えての再会であった。

 ところで、5年程前に伊東山荘を売却したお金で、年一回の家族旅行をすることになったが、正月は余りに宿代が高価な上、サービスが悪いことから、正月明けの1月19日(日)、巨大駅舎になった新宿南口の5番線から特急サフィール踊り子(Saphir ODORIKO)のプレミアムグリーン車へ。車体のダークブルーはフランス語の“SAPHIR(サファイヤ)”を意味し、「伊豆の海と空」をイメージすることから名付けられた特急だけに、なかなかの乗り心地であった。

 熱海はインバウンドに犯されている昨今に比べて、伊豆稲取のホテルは十分に空きがある上、「銀水荘」の料理、特に金目鯛の姿煮と地酒「銀の海」は絶品であった。

 幸いにも翌日の下田は天候にも恵まれ、白浜神社から爪木崎の水仙と白浜の景観は実に美しかった。何度も下田を訪れて気になっていた下田ロープウェイで寝姿山の遊歩道を歩いて、下田港や伊豆七島を見渡し、すっかり解放されての旅人気分。

 幸い帰途も最後のサフィールの乗車券が入手できて、下田から横浜駅へ。
 巨大な横浜駅から、みなとみらい線で「日本大通り駅」下車。優雅な県庁舎からSCANDIAの見慣れた建物へ。そして稲畑夫妻と家族の昔話に至福の時間を過ごした。

Blog133 村上陽一郎著「科学史家の宗教論ノート」(2025.1.10 中央公論新社)を読んで

 Blog50で、2022年2月出版の「エリートと教養」の六章で生命と教養についての考えを示され、次は「宗教」との予告通り、今度、本書を出版された。しかも実に分かり易く、科学史家としての立場で。

 本書の出版前に、2022年10月に「専門家とは誰か」(Blog74参照)を、また2023年9月には「音楽 地の塩となりて」(Blog94参照)を出版された。体力の限界と聞いていた先生が次々と出版される様は、建築界の先達で、1967年に文化勲章を受章されてなお、これが最後の遺作と称しながら、その後の作品の方が多かった村野藤吾(1891-1984)先生のことを想い出す。

 村上先生に宗教について書いて欲しかったのは、Blog102(2023年12月)「原発鎮守として、各地の一宮から鳥居を勧請する夢」を報告し、さらに2024年10月に「都市環境学を開く」(鹿島出版会)の第1章で「原発の使用済み核燃料の廃棄保存や緊急事態の住民避難を考えれば、科学的に「安全」を保障することは当然として、「安心」については神頼みとして、各国一宮からの鳥居の勧請で周辺住民は氏子となることを期待しては如何かと。結果は、多くの友人達から原発の安全安心を放棄して再稼働を容認する無責任な発想として非難されることになった。

 しかし今日、原発の再稼働が次々に進められ、第7次エネルギー基本計画でも原発推進を容認するしかない現状を考えると、原発周辺に生活する住民側の立場で考える限り、原発からの「災い」や「穢れ」を取り除く仕掛けとして、安全・安心の守り神である地域の一宮を勧請するという私の考え方についての賛否を村上陽一郎先生に聞きたいと願っていた。

 かくして、私が本書から学んだことは、全ての宗教は「知る」と「信じる」ところを起源として、「人類は本能の壊れた動物である。本能の中に具備されている筈の欲望抑制機能を破壊してしまった結果としての産物が原発であると考えれば、人間がその回復を託した宗教によってしか今日の原発に対する住民の安心が得られない」と解釈してよいであろうが、こんな無責任な解釈をした上、本書を勝手に解釈することで、私の自己実現の一如にさせてもらう幸せを宗教が与えてくれることも学んだ。

 読後感は実に爽やかで、今日のロシアのプーチン大統領がウクライナを侵攻した理由やイスラエルのネタニヤフ首相がガザ地区での非人道的空爆を続ける理由、さらにはイスラム教のコーランはムハンマドの口伝であることは知っていたが、メッカとメディナの両方が聖地である理由やインドネシアのイスラム教の実態、インドのモディ首相の言動なども本書で学ぶことができた。昨今読んだ本で、これほど短時間に多くの理解できない社会現象や世界状況まで知ることが出来たのは、教養としての宗教をベースに、「知る」ことと「信じる」ことの意味が分かったからか。AIが科学と宗教を結ぶ鍵であり、デカルトの「もの」と「こころ」についてまでも。

       科学史家の宗教論ノート (中公新書ラクレ 831)

  末筆ながら、終章の「信仰と私」で、村上先生が「信じる」ことと「愛する」ことについて『両者は類似で、平行の現象と言えそうです』という記述、先生自身がカトリシズムに止まるのかについて書かれたこと。私自身が今年の年賀状で『余生は自己実現に努めたい』と書いてしまって後悔していたが、先生の「あとがき」を読んでホッとしたことなど、何はともあれ、本書の恩恵に浴したことに感謝して。

附記

「文藝春秋」2月号の緊急特集「崩れゆく国のかたち」で、ユダヤ教である仏の歴史人口学者のエマニュエル・トッド氏が「イスラエル・ガザ紛争」について記された文中に「宗教の三段階」と題し、第一段階は、人々は信者としてミサや日曜礼拝に行き、安息日を守る(宗教の活動的状態)。第二段階は(宗教のゾンビ状態)で、人々はもはや信者ではなく、ナチズムなど政治的イデオロギーが宗教の代替物として登場する。第三段階は(宗教のゼロ状態)で、個人レベルの道徳観も宗教的道徳観に由来する社会的枠組みも、もはや存在しない。イスラエルは宗教的に生まれたユダヤ人の国家であったが、今や信仰が崩壊し「ユダヤ教ゾンビ」の段階から、アラブ人と戦うイスラエル人の国家となり、第三段階の「本物のユダヤ人の消滅」した「ユダヤ国家」ではなくなっている。従って「イスラエル建国の父達が『神は存在しないが、神は私たちに国家を与えた』は消滅か?
 「宗教と国家」の関係を論説した、1951年生まれでカトリックの洗礼を受けたエマニュエル・トッド説をこのBlogに附記することを許されたい。

Blog132 「憲法第9条の碑」と「揺らぐ国際規範」について考える

 2025年の川村晃生先生からの年賀状に「甲府市に『第9条の碑』を建立する実行委員会をつくるに当たって、事務局を自宅に置き、運動を始めました」とあった。
 

 丁度この日「ロータリークラブ在籍60年」を書いている最中で、メンバーであった(一財)IDCJの品川正治会長から生前に聞かされた話を引用していた。
『あの悲惨な戦争で日本人は310万人、アジア太平洋では2,181万人(中国ではこれにプラスすること1,000万人)の人々が亡くなった。戦争は、勝つためには敵ならず味方の生命さえも鴻毛の軽きにおく。戦争させない力である憲法第九条2項を持っている国は日本のみである。この憲法を制定する時期だけが日本国に軍がなかった。そんな時期が偶然あったからこそ、この日本国憲法の第九条2項が生まれた。第九条「戦争の放棄と戦力及び交戦権の否認、2.前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。」

 私のロータリー歴で最も影響を受け、お世話になった品川正治氏の遺言ともいえる「九条を守れ!!」いう言葉をどのように実践すればよいか分からなかったが、今度の川村先生からの「憲法第9条の碑」をつくるための募金活動を支援するのが第一歩かと考えた。

 この日の朝日新聞の社説で、人道理念(揺らぐ国際規範)で「先の大戦から80年、国際社会が積み上げてきた『人道法』というルールがいともたやすく破られ、人命が理不尽に奪われていく-略-大国による二重基準として、大国の横暴はロシアだけではない。-パレスチナ自治区ガザでの戦争だ-略-ハマス壊滅を掲げた軍事作戦は苛烈を極めた。このイスラエルを米国は「特別な同盟国」として5度の停戦を求める決議案を拒否権を行使して否決し、武器の供与も続けた。
 国際刑事裁判所(ICC)はロシアのプーチン大統領、イスラエルのネタニエフ首相に逮捕状を発行した。前者を「当然だ」と評価したバイデン大統領は、後者については「言語道断」と非難した。米ロや中国はICCに加盟していない。ロシアはICCの赤根智子所長を指名手配し、米国は経済制裁をちらつかせる。」

 日本外交の柱の一つに国連中心主義があり、日本国民は『人の命を守る』民主主義を重視し、憲法や国連・国際法を守るという実績を積み重ねてきた。

 2024年の賀状でも川村先生から「金葉和歌集」(岩波文庫)が送られて、1月12日のBlog108で報告したが、2024年中は毎週テレビで平安中期の日本の一番平和な時代の物語『光る君へ』を楽しませてもらったが、2025年の賀状は「戦争」という大きなテーマを持つことになった。

  1月6日、先ずは近くの郵便局で10口を送金をして、今年の仕事始めとさせてもらった。

Blog131(一社)都市環境エネルギー協会の2025年年頭所感

 大阪・関西万博が、愈々4月13日(日)~10月13日(月)の184日間、「いのち輝く 未来社会のデザイン」をテーマに、大阪市の人工島「夢洲」で開催されるに当たって、当協会も9月1日(月)には恒例の第32回シンポジュームを大阪ガス本社ビルのホールで開催し、翌2日にはEXPO’25会場のバックヤード見学ツアーを計画中です。皆様のご参加を期待しています。

 2024年5月に閣議決定された第六次環境基本計画では「高い生活の質として、ウエルビーイングの実現」を目指すこと。また年末に決着した第7次エネルギー基本計画では、4~5割は再生可能エネルギーとしても、エネルギー安全保障の面から、原子力や化石エネルギーも考え直せざるを得ない状況下にあって、当協会もDXやGX推進法の施行下、企業の脱炭素化投資を後押しする20兆円の国債や2050年に向けてのカーボンフリー達成に当たっての150兆円投資の有効利用を考えざるを得ません。

 こうした国の支援に応えるべく、当協会の2025年度目標は、EXPO’25会場のレガシーを活用しての「大阪夢洲地区BCD・脱炭素化推進委員会」や阪神・淡路大震災から30周年を期しての「神戸三ノ宮駅周辺カーボンニュートラルBCD委員会」の実装を強力に推進すること。
加えて、東京都の地域エネルギー供給における脱炭素化の推進制度の支援で、副理事長会の合意の下に実績を重ねてきた
 ①中央区BCD・カーボンハーフ推進委員会
 ②港区BCD・カーボンハーフ推進委員会
 ③豊島区BCD・カーボンハーフ推進委員会
 ④新宿区BCD・カーボンハーフ推進委員会の実装。
 さらには、令和6年3月、環境省による一般廃棄物処理事業における地方公共団体実行計画ガイダンスに基づき、ゴミ焼却場からの排熱やCO2の有効利用をベースに、
 ⑤横浜都心臨海部BCD・脱炭素化推進委員会
 ⑧名古屋都心部BCD・脱炭素化推進委員会
 ⑨福岡天神地区BCD・脱炭素化推進委員会   等についても再検討する予定です。

 2025年1月には、米国のトランプ大統領の就任で世界状況が一変するとの予測もありますが、今年からは当協会の第7期中期計画の策定に基づいて実績を重ねて参る所存です。
会員皆様の御支援御鞭撻をよろしくお願いする次第です。

Blog130 2024年のOB忘年会で米寿から卒寿を展望

 2024年12月27日(金)、自宅で忘年会を開催することになったのは、Blog126で報告した「米寿祝賀会」と建築会館ホールで「都市環境を開く」を用いた講演会の高揚感もあった。幸い14人もの参加者を得て、NPO-AIUEは私の自己実現の場として活用させてもらうことにした。唯、自民党の裏金問題等、お金の流れに関して、コンプライアンスが厳しくなって、NPOとしてもこの点は気をつけるべしとの意見から、あくまで個人の指定寄附を中心に、テーマ毎にOBの同窓会方式にすることで決着する。

 当日は晴天であったが年末の寒風吹く中庭で、渋田君のピザ窯で焼き上げた特製ピザをメインに、乾杯後、写真の如き室内での賑やかな宴会となり、人生百年時代にあって、こうした共生の場の有り難さを痛感して、再生NPO-AIUEの催事を考えてみた。

 2025年4月には新理事の登録と再生第1回理事会は自宅庭での観桜会として、第2回は6月の総会、第3回は8月の八ヶ岳合宿、第4回は9月2日の大阪・関西EXPO見学、第5回は12月の忘年会を予定する。

 NPO-AIUEの新理事候補は、忘年会出席者である尾島・中嶋*・(熊谷)・市川・吉田*・前川・佐土原*・今泉*・村上*・高口*・原*・渋田*・松原*・(長谷見)他に加えて、支部長の森山・西岡・須藤・依田君他にお願いすることにして、登記は*印の10人を常任理事推しては如何であろう。

2025年度に期待される寄附研究として
1)国際投資研究会(尾島州一・市川徹)
2)八ヶ岳研究会(尾島俊雄・福島朝彦・増田幸宏他)
3)北陸・東海支部の活性化支援(松原純子・西岡哲平・原英嗣・渋田玲)
  富山都心再開発(ギャラリー太田口の活用)や名古屋中心C.N.とBCD計画
4)海外からの水素サプライチェーン調査(吉田公夫・佐土原聡)
5)日本各地のBCDとC.N.研究(中嶋浩三・佐土原聡・村上公哉・増田幸宏)
6)「尾島研究室の軌跡」出版とBlogの発信(尾島俊雄
7)(一社)AIUEの国際会議支援(福田展淳・高偉俊他)
  国際会議(第22回以降の継続支援)
8)NPO-AIUEの理事会と催事の事務局機能(吉田公夫・渋田玲他)

 理事・支部長他の年会費をベースに、研究会は会員個人の指定寄附。毎年1回は支部主催の「この都市のまほろば研究会」。
 以上、OB・OG達との共有可能な自己実現の場を創る。如何であろうか。