「震災復興10年の総点検『創造的復興』に向けて」(五十嵐・加藤・渡辺共著、岩波ブックレット)を読んで

 2021年2月、五十嵐敬喜先生から岩波ブックレットNo.1041が贈られてきた。表紙に「32兆円は、人々を幸せにしたのか?」とある。

震災復興10年の総点検
岩波ブックレットNo.1041 2021.2 出版)

 2011年3月11日の東日本大震災時、五十嵐先生は内閣官房参与として総理官邸に居て、国家戦略室で復興院を発足させるについて意見を求められた。その返事に当たって、伊藤滋先生に相談したところ、「日本政府のPublic CommitmentsとSpokesmanの質が問題で、結果として、政官民で感覚のズレがあること。」国とは別に、私達自身で「この大惨事を忘れぬ間に、少しでも正確に市民の目線で捉えた実状を出版することで、せめても被災者に報い、今後の日本再建に寄与したい」となり、「東日本大震災からの日本再生」(中央公論新社、2011.6.25)を出版した。これを海外にもとNPO-AIUEで英・中・韓国語に翻訳出版した。

【中古】東日本大震災からの日本再生/伊藤滋,尾島俊雄【監修】【中古】afb
(中央公論新社 2011.6 出版)

 当時の民主党内閣は、菅直人首相の下で、東日本大震災という未曾有の自然災害に加えて、福島原発事故で総理官邸の混乱は極度に達していた。五十嵐参与も、平常時は静かなはずの参与室で、民主党での日本の将来像を進言する予定が、執務できる状況にないため、私の銀座オフィスで後方支援できないかと頼まれた程であった。

 以前、私が岩波ブックレットに「異議あり!臨海副都心」(No.247)を書いたのは、東大先端研の客員教授時代で、東京一極集中を加速させる臨海副都心での東京都市博や副都心づくりに対して、人格をかけての異議申請の出版であった。この成果として都市博は中止になり、副都心づくりは中断した。この善し悪しは別にして、「幸せにしたかどうか旗色鮮明にすること」が総点検者の役割と考えるためである。

(岩波ブックレットNo.247 1992.3 出版)

 岩波ブックレットNo.1041は五十嵐先生も人格をかけての提言かと熟読した。然るに、「32兆円という巨額をかけた復興政策の光と影、防潮堤や住宅、まちづくりなどハードの側面と生業の再建などソフトの側面から検討した結果として、「本当に被災者の役に立っているのか、厳しく検証されるべきであろう」との優しい評価であった。期待したのは5章の「事前復興計画-幸福論と田園都市論」であったが、「日本のあるべき姿」としての「事前復興計画」について高知県や岩手県での範例を示したのみである。「復興とは、つまるところ幸福をどのようにして保証し、積み上げていくのか、ということに尽きるというのが私達の結論なのである。」

 あとがきで、五十嵐先生は、「創造的復興」に32兆円もの巨額(1000住戸入居するタワーマンションが320棟分にも相当)投資をした上に、復興庁なる組織をつくり、これを10年も延長すると閣議決定された。これによって、今後予想される南海トラフ地震や首都直下地震に対して、政府や自治体の描く「公共事業」中心の復興デザインとは別に、独自に新しい行動パターンによって「日本の再生」に取り組む人々が生まれたと書いている。

 本書によって、東京の災害事前復興計画が見えてこないのが残念で、その上、福島原発事故からの復興については、専門外として点検の対象としなかった。

 32兆円という国費の使途についての検証に少しでも災害事前復興計画への予算配慮が欲しかった。コロナ禍のGo Toキャンペーンや一律給付金、さらには予備費の使途について、余りの無駄と思える国費の使途については、これからの五十嵐評を期待している。

 と書いている最中、2月13日(土)23:08の地震である。自宅で震度4、M7.3(阪神淡路大震災や熊本地震と同じレベル)、地下55km、10年前の東日本大震災の余震であった。震度6強の場所もあったに拘わらず、死者も倒壊した家屋もない様子に、宮城・福島地方の建物補強等の防災対策が進んだためか。

 国土交通省都市局のアンケート調査で、「復興事前準備」の必要性に関しては57%も重要と認識しているが、地方公共団体の5%しか実施されていない。他業務の負担が大きく、検討時間がない60%、何をすればよいかわからない37%と、岩手や高知は5%の例外であること。まして「事前復興」に至っては皆無に等しいという。

 1995年の阪神淡路大震災の直後に、建設業界からの委託もあり東京の事前復興計画案を作成して公表したところ、ある新聞で災害待ちの建設業界と叩かれたことや、2011年の東日本大震災後、川口市や江東区・練馬区・中央区等で事前復興計画案を作成して、それぞれ首長に見せるに当たって、区役所職員に説明に行ったところ、実に迷惑顔をされ、学生たちにこの種のテーマで論文を書かせる困難さを感じた。

 今日のコロナ対策としてのワクチン研究や、その接種普及に世界中が争奪戦するに比して、大地震や気候変動に対する事前復興対策投資は、昨今のESG投資状況を見る限り、これからが本番と思えるが、そのためにも五十嵐先生の如き先駆者が欲しいからである。

 東京直下地震の確率が高まる今日、コロナ禍での「創造的復興」以前に、先ずは被災状況を具体的に想定した上で、復興のシンボルとして「生活再建」と「市街地復興」の双方の視点から、「復興事前準備」と「事前復興計画」を検討することの必要性である。なにはともあれ、Society5.0時代のDXまちづくり時代「国費の使途と成果に関する評価の大切さ」を本書で気づかされたことから、こんなBlogを書くことになった。