日本景観学会 2021年度秋季シンポジューム研究発表会

2021年11月20日(土)13:00~17:00、オンラインZOOM方式で

 13:00 開会 

 13:10 開会挨拶:中矢雄二副会長

 13:20-14:40 基調講演

  講演1:土岐 寛:電柱問題を改めて考える−経済大国・文化小国から脱皮の展望−

  講演2:向殿政男:「鉄道のある風景」と景観概念について

 14:40-14:50 休憩

 14:50-16:10 研究発表

  発表1:成田イクコ:景観計画における色彩規制をとりまく環境

  発表2:山路永司:農村地域における太陽光パネルの景観

  発表3:西原 聡:柿田川湧水にみる富士山がくれた水辺景観

  発表4:齋藤正己:離島の景観−観光が果たした役割とは?

 16:10-16:30 自由討議

 16:30 閉会挨拶:土岐 寛

 土岐基調講演:日本の電柱・電線の景観破壊は国辱的、地中化率は東京23区でも10%、台北の95%、シンガポールの100%と比較して、何とかしなければならない。東京都の小池知事も国土交通省も地中化を推進する条例や支援策を提案しているが、今も電柱は増加し続けている。このままでは年間4000kmの地中化では128万kmの道路を全地中化するには300年必要とする。日本景観学会として「宣言」や「声明」を出すに当たって、電線のみならず、CATVや光ケーブル等の架空施設による景観破壊防止についての方策を、土岐会長を中心に検討することになった。

 向殿基調講演:「鉄道のある風景」をテーマに、「風景」「景色」「景観」を英訳すれば、どれも”Landscape”である。しかし、日本人にとってその違いは鮮明で、スケールの大中小、人間関与の強弱で比較すると、いずれも風景>景色>景観となって、景観は最もスケールが小さく、人間の関与度合いが最も大きい、と景観概念の定義に言及。

 尾島は、藤澤前会長は「景観」を”KEIKAN”と訳して、学会誌の表紙として、また商標登録したことを話す。広辞苑で「景観」とは「自然と人間界のことが入り交じっている現実のさま」とある。共生の思想やFuzzy(あいまいさを許容する)、自然のみ、人間のみでは「景観」とは呼ばない、哲学・思想が欲しいと向殿氏。

 続く研究発表会は斎藤氏司会で、

1.成田イクコ氏:景観計画は色彩規制が中心で、地域固有の色、特性として茶・黒・白中心。中津川市や中山道の伝建地区、犬山城下等の低彩度色彩について言及。

2.山路氏:太陽光パネルの景観破壊の実情について説明。地産地消の立場や景観を破壊しない限りはGHGの観点から太陽光パネルの普及に反対しない。特に耕作放棄地でのソーラーシェアリング等は、3年毎から10年毎の申請でも良い。17~27度の傾斜地で1ha以上のソーラーパネル等は、伊豆山での土砂災害などを考えると危険である。「景観破壊のない限り」とか「森林や農地、スケールや地勢等」で定性的に「賛成」とか「反対」ではなく、確かなる定義に基づいたGHG対策としてのソーラー普及策をつくるべきと。これは山路氏の課題となった。

3.西原氏:柿田川遊水池の水辺景観については、報告通りに重要な指摘であった。具体的に、富士山周辺環境の整備は重要であるが、余りに課題が多いこと。500万㎥/日の美しい富士山湧水が毎年減っている。柿田川一級河川1200mの景観保全の大切さを再認識し、アクセスや休憩地の整備が第一歩。

4.斎藤氏:沖縄離島の宮古島・石垣島・竹富島・西表島での星野リゾート開発等、日本景観学会も苦労したが、その後、景観破壊や限界集落問題はインバウンドの増加で解決した。クルーズ船の観光客等では600万人から1000万人に増加。そのうち30%が外国人で、限界集落が激変。観光、環境、産業、地元の入島税対策等について興味深い報告。

 16:00からの自由討議は、山路氏の司会で、実に有意義な勉強会になった。健康を害して会長を引退された藤澤和先生もwebとあって自宅から出演。シンポと発表会の総括をされて、無事終了。

 閉会の挨拶で土岐会長自身が大きな宿題を持ったと話された。日本景観学会の立ち位置が明確になるに及んで、学会の責任が益々重要になってきたことから、事務局4人の方々の役割も再認識されて、終了。

豊洲市場を歩いて後、第2回の縄文社会研究会・東京部会出席

 2021年11月18日(木)早朝、慈恵医大のCT検査を桑野和善医師の診断で受ける。2016年、槇文彦さんを中心に、代々木国立競技場を世界遺産にする運動が始まって、その顧問役を頼まれた。1964年10月の東京オリンピック時、巨大ノズルから外気を噴出することで、騒音対策と競技場内の温湿度分布を測定するため、天井裏の屋根断熱のため吹き付けたアスベストと送風機室前後の石綿吸音材を貼ったチャンバー内に何日も滞在した。その時にアスベストを相当吸ったのではと考え、主治医の田中医師に相談した結果、2016年9月、AIC八重洲クリニックで検査したところ、①アスベスト肺およびアスベスト関連胸膜疾患の疑いあり、②動脈硬化性変化、との画像診断(渡辺慎医師)。その結果、毎年11月に東京慈恵医大の桑野医師のCT検査による診断を受けることになって6年目である。

 何カ所かのアスベスト破片の位置や周辺に変化がないとの診断もあり、もうこれで良いのではと尋ねると、「何時変化するか分からぬから、続けるように」とのこと。裁判で国家負担が決まったが、当方は異常がないため、せめて来年からは午後の検査を予約。午前9時30分、天気が良いのでタクシーで新橋の「ゆりかもめ駅」へ直行する。

 久し振りの「ゆりかもめ」は満員である。目的地の市場前駅はなんと終点豊洲までの16駅中の14駅目で、30分近くの乗車。駅には特別な案内パンフレットもなく、市場公開中とあって、均質で巨大な市場建物群の空中回廊を「魚」の道案内矢印に沿って歩く。コロナ禍とあって、何カ所にも分散した飲食店街や見学デッキ、屋上緑化の庭園にも人影は少なく、淋しい。11時半、「弁富すし」で灘の正宗に特上にぎりを一人前、職人との話も面白くないまま、食後1時間程歩いて、青果市場へ。松茸など安いので買いたいと思えど、持ち帰りが面倒。築地市場時代の鮨屋や露店の青果店に比べて何故か淋しく、活気がない。珈琲店で一休みして、再び市場前駅のゆりかもめに乗車する。

 豊洲市場へは地下鉄の直結と千客万来空間が不可欠である。有明スポーツセンターや東京ビッグサイト駅での乗降者も少しばかり。幸い、最後部座席での展望は面白い風景が楽しめる。

 気になっていた東京国際クルーズターミナル駅や台場駅で途中下車するも、見学すべき施設も全て閉鎖中とあって、再びレインボーブリッジを渡って竹芝駅下車。ホテルインターコンチネル東京ベイの庭や竹芝小型船乗り場も人影少なく、美しい東京都の視察船「東京みなと丸」が2~3人の乗客を乗せて出航する風景も、コロナ禍の惨状を示すようだ。しかし先週訪ねた神戸港同様、日の出や竹芝埠頭からの風景は素晴らしい。

 縄文社会研究会(東京部会)が3時から新橋の国際善隣会館4階で開かれるに当たっての5時間程お有効に使って、日頃なかなか視察できないでいた豊洲市場散歩のみならず、久し振り東京港の風景は、東京オリパラ後だけに、インバウンドのみならず、都民の憩いの場としても素晴らしい場所になっている。帰宅して、東京ガスに勤務している娘にこのことを話すと、なんとその場所は昼食の憩いの場で、日常空間と聞いて驚いた次第。

 縄文社会研究会の京都部会は、上田篤先生や田中充子先生が中心だけあって活動的であるが、東京部会は松浦先生との連絡がとれなかったとかで、第1回目の島薗進先生を招いた銀座尾島研での研究会後、2020年の八ヶ岳合宿以来の第2回目。山岸修、雛元昌弘、佐藤建吉、下平紀代子、石飛仁、芦田万氏の7名出席。大部分は雛元報告と長野、山梨の縄文遺跡を世界遺産登録する価値について話し合う。特に出雲と諏訪の関係は日本の闇で、これを明らかにする努力よりも、争いのなかった縄文文化を日本文明としてAD5世紀以降の歴史と継承させることについての討論は有意義であった。文明と文化についての違いについてもメンバーの意見は分かれていたが、傾聴に値する2時間で、世界遺産登録への勉強会は会員の輪を広げるためにも価値あり。YouTubeで公開していくことについても事務局に一任することで閉会する。