Blog#84 磯崎新著「瓦礫(デブリ)の未来」(2019.9 青土社)を購入して

 毎月一回は決まって丸善で2時間余、持てるだけの本を購入するようになったのは、3年前のコロナ・パンデミックが始まった頃からだ。

 2023年3月29日は、恒川恵市著「新興国は世界を変えるか」(2023.1 中公新書)、クーリエ・ジャポン編「新しい世界―世界の賢人16人が語る未来」(2021.1 講談社現代新書)、エマニュエル・トッド、マルクス・ガブリエル他書「2035年の世界地図」(2023.2 朝日新書)、伊藤亜聖著「デジタル化する新興国」(2021.6 中公新書)、伊藤元重著「世界インフレと日本経済の未来」(202.3 PHPビジネス新書)、石井亜矢子著、岩崎隼画「仏像図解新書」(2022.8 小学館101新書)を手にしてレジに向かったところで、磯崎新氏の著書が何冊か並んでいるのに気付いた。

「瓦礫(デブリ)の未来」
(2019.9 青土社)

 石原慎太郎や安倍晋三、稲盛和夫等、著名人の逝去に伴っての追悼出版かと思ったが、そのようでもない。これまで彼の著書は殆ど贈呈されていたことから、不思議な気持ちで、初めて見る表紙にArata Isozaki:磯崎新「瓦礫(デブリ)の未来」とあり、彼自身のスケッチとすぐ分かるDEBRISの大文字とデブリの絵が墓標の如きに見えたからである。
開いた瞬間、I.ザハ無念 Ⅱ.クルディスタン Ⅲ. 安仁鎮 Ⅳ.平壌の目次で、2019年9月の出版とあった。

 2018年11月28日、国際文化会館で、中国雄安スマートシティコンペの件で磯崎さんと話し合って、何故か沖縄に住んでいることを聞かされ、玄関で記念撮影をしたときに、これが最後の予感があった。何故なら、上京が最後になるからとの上田篤先生の接待で、わざわざニューオータニの「ほり川」で話し合ったとき、その料亭がEXPO’70の西山・上田対丹下・磯崎の東西戦争の談合の場であったこと等と聞かされ、そのことを翌日、磯崎さんに伝えると、上田・磯崎の最後の談合話を聞くことになった。

 そんなこともあって、初めて購入したこの著書を早速、自宅で読み始めた。最初は支離滅裂で全く面白くないと思いながら、読む程に、こんな磯崎の頭の中をもっと早く知っておきたかったと思うと、急に面白くなって、2日間も本書の虜になってしまった。やはりこの著書は磯崎の遺書か回顧録に思えてきた。

 Blog#83で「戦後空間史」を読んでの感想を述べたと同様、磯崎の歩んだ91年間こそ自分が生きていた建築界の最先端の歴史であり、世界の建築家達が活躍した空間であったことを教えられた。本書で語っている磯崎が出合った人々の多くが私も出合ったことのある人たちであったから、余計に面白くなった。

 丹下健三、黒川紀章、菊竹清訓、岡本太郎、東野芳明、川添登、山口勝広、松浦浩平、勅使河原宏、西山卯三、上田篤、折口信夫、バックミンスター・フラー等々は直接に、間接的には、文献などから学んだことのある岡倉天心、柳田国男、大江健三郎、石原裕次郎、安部公房、谷崎潤一郎、三島由紀夫、宮沢賢治、伊藤忠太、毛沢東、周恩来、一柳慧、アンドレア・パラディオ、ラフカディオ・ハーン、スターリン、ヒトラー、ビートルズ、金日成、金正日、金正恩、金寿根、レーニン、ナポレオン、ホーチミン、フリーメーソン、ジェファーソン、ルイ16世、マリーアントワネット、孫文、鄧小平、ジョン・レノン、ガガーリン、エリツィン、アドルフ・ロース、エッフェル、シンケル、ミース・ファンデル・ローエ、アインシュタイン、フィリップ・ジョンソン、ピーター・アイゼンマン、ザハ・ハディド、ノイトラ、ドクシャデス、ダライラマ、ケネディ、ヴィトロ・ヴィウス、ギーデオン、フランク・ロイド・ライト、ル・コルビュジエ、アル・ゴア、栄西、西行、重源、フセイン等々。

 見えない都市、インビジブルシティ、不可視都市、都江堰、デロス島、賢人会議、議定書、CIAM、アテネ憲章、ARK NOVA、宇宙船地球号、御嶽、千年王国、導師、主体思想、先軍思想、パクストン、クリスタルハウス、カツラ(桂離宮)、ガリア戦記、文化大革命、大洪水、未来―弥勒、アルハンブラ、建築の解体、DECON、MOMA、クルド人、トリエンナーレ、梁山泊、電脳都市、アルカイダ、アララット山、ローマクラブ、シャーマン、宇津保物語、結界、補陀落渡海、即身仏、日本書紀、グレートバリアリーフ等々。

 以上、連記した固有名詞が磯崎にとってのDEBRISであり、これが未来を切り拓く種となり、頭の中に棲み着いて連鎖し、生々しい実体験として彼の人生を形成し、彼の作品に反映して未来を切り拓く。これまで贈呈された数多くの磯崎著書の中でもユニークな一冊として、私にとって座右の書となった。

 建築や都市が解体されるとDEBRISになり、そのDEBRISこそが新しい建築や都市の未来を創る。その創り方を教えてくれる人も又、磯崎にとってはDEBRISであったのか。本書を理解するには経験と時間がもっと必要である。