Blog#122 「新作庭記」(マルモ出版、1999.8)進士五十八・鈴木博之・中村良夫・内田昭蔵・オギュスタン・ベルク連著を読んで

 2024年8月の盆休み、退屈していたことから、富山の自宅庭が荒れ放題になっていたのを何とかせねばと考え、手元にあった庭造りの本に目を通す。

ヘルマン・ヘッセの「庭仕事の愉しみ」(1996.6 草思社)は何度も目を通していたので後にして、富山の庭は「枯山水」が似合うように思ったので、重森三玲著「灯籠と蹲」を参考にして石灯籠を入れたことから、先ずは、この「枯山水」について改めて読んでみる。しかし、本格的枯山水のコストを考えると不可能である。
 結果として、Blogの表題の著書を手にすると、すでに熟読していたらしく何カ所にも折り込みや傍線がつけてあった。その上、本書は内田昭蔵先生からの贈呈で、手紙も入っていた。

 改めて本書を読むと、連著書の第5章 オギュスタン・ベルク氏発言が気になった。1942年生まれで、当時、フランス国立社会科学高等研究院教授、1984~86年、日仏会館フランス学長で、「日本の風景・西欧の景観」(講談社現代新書)や「風土の日本」(ちくま学芸文庫)の著書があった。以下に彼の著述(翻訳:篠田勝英)を抜粋引用する。

・私は日本に興味を持ち、この国のことを学び始めて30余年。日本語の「主体」「主観」「主語」「主題」の四語はフランス語や英語では一つの単語である。日本語の読み方を学ぶヨーロッパ人が直面する問題は「主語」の明示されないのが日本文である。そういう日本文においては、いかなる語も主語の代わりをしない。語っている人物の状況と身分に応じて変化するからだ。

・明治期に、日本の地理学者がドイツ語のLandschaft、英語のLandscape、フランス語のPaysageを「景観」と訳した。この時期、日本の画家達が「山水画」を「風景画」として語り始めたのは、主体の関係の変化であった。とりわけ「景観」という語は、主体から客体に向けられた視線の存在を前提とする。山水(風景)から「景観」に移行することは、文字通りの転倒が含まれている。「山水」の場合、重要なのはモチーフ(山ないし水)であり、「景観」の場合、視線「観」、すなわち主体の存在である。そして、その主体にとってモチーフ(「景」)が客体となるのである。
 一方には「景観」の研究を客観的な科学にしようという近代日本の地理学者の意図があり、他方には、後述する黄枝の句*によって示したような風景の伝統があった。実のところ、両者は両立しがたいものであった。その当時、日本人全員がこの両立不能の「体験」をしたのだった。
  *「風鈴の ちひさき音の 下にゐる」黄枝の句
 視覚以外の感覚(肌に感じる爽やかな風を喚起する音)によって、さらには体感(生活様式)、雰囲気は主体ではない「ゐる」の主語は存在しない。主語の不在が場面を活性化している。この様な風景が日本に存在するからで、日本語の表現がこれを可能にするから、このような句が生まれる。

 逆に、日本の地理学者が「景観」と訳した客体としては、ドイツのLandschaftほど深い根を持っていなかったことは明白である。

○作庭記とは、風情を巡らして空間と景観をつくる思想と方法である。

○主体と客体について、私が考察するところ(主体「観」の対称にあるのは客体「景」である筈が、主語を明示しないことによって景観のあり方を不明、曖昧、いいかげんにしたが、それを良しとするのが日本文化。)
  人間と(時間)空間を対比するように
  地理学と自然(地球の自然)
  社会学と風土(固有の風土)
  作家と風情(人格を求める)
  画家と風景(美しい風景を描く)
  建築家と景観(実景をつくる、設計者)
  物理学と環境(環境を破壊する)

 戦後の日本経済がバブル期にあった1990年代、建築自由の日本社会にあって、ヨーロッパ等の先進諸国に比し、無秩序な乱開発(屋外広告など)として景観の価値が問われ、2004年6月、国土交通省では景観緑三法を公布する。

 1999年11月には黒川紀章や藤沢和氏によって日本景観学会が創立された。日本の都市景観に対する取り組みが全く進まないのは、都市の主体者が不在であること以上に、その「ウラ」にもっと深い日本文化の特性があり、主体(責任者)を曖昧にしてきた故か?本書のオギュスタン・ベルク氏の学説を日本景観学会でも再検討する価値がありそうだ。足立美術館の庭、東京の自宅の庭、八ヶ岳山荘の庭、そして富山の留守宅の庭造りにも主体者不在を認識させられた上、何故かヘルマン・ヘッセの「庭仕事の愉しみ」を再読せずには居られなかった。

Blog#121 TOKYO2020からパリ2024オリンピックのTV観戦を通して

 2021年7月の東京2020オリンピックはコロナパンデミックとあって、1年遅れの無観客という異例の開催であった。がしかし、205ヶ国(地域)から33競技339種に派遣されたアスリート11,000人中6000余人が全員マスク姿で国立代々木競技場の入場式に参加した。この「コロナに打ち勝った証」はあまりに淋しかった。

 この東京大会に比べて、パリ2024オリンピックは、余りに華やかな開幕であった。エッフェル塔を背景に、セーヌ川の美しい橋を舞台に、1万人余の各国選手団が手を振りながら55隻の船に分乗しての入場式は圧巻であった。

 東京大会と同じ規模の206ヶ国(地域)から32競技329種に分かれての競技は、終わってみると、メダル数の1位はアメリカで、東京の113に比べ、パリでは129、2位の中国は88に比し91、3位の日本は58に比し45。開催国のフランスは4位の豪の53に比し64で5位。但し金の数は日本の20に対し豪は18で、仏は16であった。

 それにしても驚きは、1ケ月前の予測で日本のメダルは金銀銅で12+13+21=46と結果の20+12+13=45とたった1個の違いだったとは。特筆すべきは、パリ2024でスケートボードや初めて種目に加えられたブレイキンで日本が金メダルを得たこと。フェンシングややり投げ、近代五種などでのメダル獲得である。反面、オリンピック前から賑やかだったサッカーやバレーボール、バスケットボール等のチームプレーでの敗退で、2028ロスでの野球復活が話題になっているのは余りにはしたない。

 今度のパリ2024オリンピックでも開催中の前半は八ヶ岳の夏合宿で、後半も家族の観戦を側で観ていた程度であったが。学生時代、剱岳の岩場で訓練していた頃の体重55kg、腕の握力75kgであったのに比べて、昨今の体重は75kg、握力が40kgと情けなきこと。それ故か、東京大会から新種目に加えられたスポーツクライミングで「大和撫子」を思わせる森秋彩さんのリードクライミングのトップには魅せられた。

 この華やかな祭典に今大会も参加出来なかったロシアの存在と、オリンピック中も止むことなきウクライナ侵略。イスラエルのガザ空爆では4万人もの死者と10万人を超える負傷者を考えると、クーベルタンの理想としての戦争に代わる近代オリンピックのあり方が問われてしまう。

 こんな状況下で読んでいた文藝春秋誌の第171回芥川賞受賞作、松永K三蔵著「バリ山行」は、最近の芥川賞にはみられないほど実に読み易く、純文学作品であった。建設業社の下請けサラリーマンが日常の生活苦から解放されるため、神戸の六甲山系の自然に仲間と分け入っての心身の葛藤を綴った作品である。松永さんの受賞会見を読んで感心したのは、『ままならないものを書きたい。「ままならない」とは不条理だ。それは私達が生きているこの世界に厳然と存在する。しかし不条理に対して「なぜ?」と問いながらも、対峙し続ける人間の強さであったり愚かしさであったり、また美しさや哀しさ・・・そんな姿を書きたい』と。

 8月13日、東京の旧盆休みに、改めて人間の不条理を問う!8月28日からのパリ2024パラリンピックを前に、死者を生む戦争よりは平和に生きるオリンピック! 原水爆やミサイルより金・銀・銅のメダルだ!! 兵士よりアスリートを!!! と願うのは不条理か。

 8月11日午後の閉会式では、ロサンゼルス2028オリンピックに向け、あのトム・クルーズがスタジアムの屋根から地上に降りて、ロス市長から五輪旗を預かるとバイクでパリ市中を走り抜け、飛行機でハリウッドの丘へ降り立つ映像が流れる。

 それにしても、古都パリの都市がもつパースペクティブの利いたビスタを最大限に活かしてのアスリートたちの躍動。それを支えるはエッフェル塔、凱旋門、ルーブル、シャイヨー宮、グラン・パレ、コンコルド等の建築、マラソンのゴールがアンバリッドとは出来過ぎである。セーヌで泳いだパリ市長やパリ市内をこの祭典の舞台に解放したパリ市民のおもてなしに東京から最敬礼。

Blog#120 第16回八ヶ岳研究会と尾島山荘夏合宿(ジビエ料理)速報

 

 024年8月の夏合宿は8月1日~5日の4泊5日。日程表の如く参加者18人。8月3日(土)と4日(日)は12人が宿泊したため、テントが2張り、写真の如く賑やかなジビエBBQと猪鍋が二晩続く。渋田君が東京から仕入れての調理である。

八ヶ岳研究会の炭火焼きジビエ料理

 第16回八ヶ岳研究会に向けて、水素を燃料にしたジビエ料理が、池の平ホテルの名物料理にならないかとの小林光先生の発案から、水素利用の料理に関して事前に調査した。しかし、山荘で気軽に水素を利用するにはまだ問題が多く、炭火焼きジビエ料理BBQと猪鍋(ボタン鍋)とピザ窯活用の本格ピザが主役となり大好評。
 保全センターと環境技研の料理腕比べも楽しく、中国釣魚台の白酒や井上高秋さん持参のBOWMORE18年スコッチに、寒いほどの山荘で、夜の時間を忘れる。

JES主催の豪華な朝食(12人)風景

 8月4日(日)、保全センターチームは御嶽山ビジターセンター(さとテラス山岳)と(やまテラス大滝)の二ヶ所を訪問。2014年9月の御嶽山噴火災害の展示を視察。JESチームは北杜市の「平山郁夫シルクロード美術館」や「オオムラサキセンター」を訪問する。

御嶽山ビジターセンター(やまテラス王滝)(平瀬有人設計 2022年)

  8月2日の池の平ホテルでの第16回八ヶ岳研究会は、矢島・小林光・中川・福島氏と私の5人の幹事と原君が同席。「かわぐち・たてしなの森」の利活用について、中川・福島両氏のヒアリングの報告。

 (株)白樺村は、さん橋整備に加えて別荘地の改修や県・市・町との調整が進んでいる。『白樺湖と八ヶ岳物語』の2025年出版について、各自から資料提供や記載要求を年度内に受理する。NPO-AIUE出版。(株)白樺村での販売について検討する。

この写真集は、スイス・ツェルマット(マッターホルン)のガイドブックを参考にしたものであるが、リゾート地でのロングスティの参考書としてのみならず、当地をスイスのダボス(標高1560m、人口1万人)やアメリカのアスペン(標高2400m、人口7000人)の如き、世界のコンベンションシティとしての魅力をもたせるべく意図しての出版物にしたい。

白樺湖と八ヶ岳物語(2025年出版予定)