Blog137 三谷忠照著「超高齢社会とは、イノベーションのレベルを高度化させていくことが期待できる社会、かもしれない」(Carbon No.12 2025.2)を読んで

 三谷産業の会報誌「Carbon」のPROLOGUEを読んで、発行人の三谷忠照氏の考え方に共鳴した。
『一人ひとりが長寿化することによって、生産活動における技能の獲得は、習得から習熟へ、さらに熟達へと至る人も増えていくでしょう。
 また、複数の仕事や専門分野を掛け持つマルチキャリアや、再雇用・再配置によって、一人ひとりの働き方はさらに多様化していきます。
 過去の経験を活かしてより適切な判断ができる人、出身分野で培った知識や技能を異分野で活かすことができる人、そして複数の技能に熟達する人が、より多く存在するようになるでしょう。』

 しかし、超高齢化した人たちの存在価値と立場を今日の社会で見直すには、余程のインセンティブが必要で、私自身が米寿を迎え、日頃の社会活動に心理的影響を受けている。
 そんな時、Blog136でOBの柴田裕之君が訳したY.N.ハラリ著「NEXUS 情報の人類史」で、『AIは人工知能(Artificial Intelligence)の頭文字だったが、(Alien Intelligence)の頭文語と考える方がいいかもしれない』との解説で覚醒した。何故なら、昔は卒寿から白寿の超高齢者は「長老」とか「仙人」と呼ばれて、異質の知恵を持った人と尊敬されていた。

 江戸時代は40代で隠居生活に入ったが、現代は60代で定年退職、2030年代には80代まで現役として働くことになり、その後の90代は施設で介護老人にされ、まともな社会人としての地位を与えられそうにない。
 しかし、古代ローマや明治時代には元老院なる国の機関すら存在した。昔話には老人の知恵を大切にしたことで、家や国が救われた物語もあった。スターウォーズで活躍する銀河元老院にもエイリアン達の知恵が活用されており、これからのAI時代を乗りこなすヒントになるかもしれない。

 三谷忠照氏の『ただし、私たちはまだ、超高齢社会を乗りこなすことができていません。年齢的に高齢者となった方々が、生産活動に従事できる範囲を広げ、それに参加したいと思える、あるいは他の現役世代への支援をになうことができるような環境をととのえていくことこそが、私たち社会参加者が「いざ、超高齢社会へ。」と進むための意図となるはずです。』の問いかけを尊重したい。

 私が三谷忠照氏発行のCarbon誌を愛読するのは、彼の尊父・三谷充氏が現役時代、日下公人氏と相磯秀夫氏を社外監査役にされ、両氏がご高齢になられ自ら退任されても、同社は「御御御所」として特別な地位を与え、会社との関係を保ち続けられていたこと。残念ながらコロナパンデミックが続いて、日下先生は完全介護施設に入居され、社会と断絶。日下先生はエイリアン的存在で、90代になられてからは、特に悟りを開かれていたようで、懇談の機会を楽しみにしていた。しかし、社会との断絶は致命的で、この体験から社会的対策が急務と実感させられていた。

(悟りを開いた人は多くは宗教界に入ってしまうようだが、バラモンの長老は90才を超えるとセーラ(Sela)と呼ばれて、社会的特権を得る由。日本でも90代以上は民主主義の神髄である人権と公民権を保障しての地位を得ることが出来れば、生存者叙勲制度より良いかもしれない。)

「Carbon(カーボン)=「炭素」は結びつき方次第でさまざまな性能を発現することから、企業と企業とが協業して結びつき、イノベーションが生み出される」との発行人・三谷忠照氏の発想は、ハラリ著の「NEXUS 情報の人類史」の内容と考え方に共通する(Blog136参照)

Blog136 Y.N.ハラリ著、柴田裕之訳「NEXUS情報の人類史(上巻:人間のネットワーク、下巻:AI革命)」を読んで

 NPO-AIUEの国際投資研究会で、トランプ2.0が毎日のように発信する情報に一喜一憂させられている時、絶好調だったN.Y.株が余りの異常さで急落した。その原因は、機関投資家ではなく、AIに依存する多数の投資家と分かって、AIの判断が今や専門家や機関投資家以上の影響を株価にも与える時代が来たことを実感させられた。その上で、研究会ではそれがどこの国のAIなのかが話題になり、AIの未来が心配になった。そんな時、柴田君から本書が贈られてきたのに驚く。

Y.N.ハラリ著 柴田裕之訳『NEXUS 上・下巻』
(河出書房新社 2025.3.5)

 年末に、『来春には重要な本の訳が出ます』と柴田君が話していたとおり、今度も余りにタイミング良く、「サピエンス全史」や「ホモ・デウス」、「21 Lessons」に続く、一読しただけで世界的ベストセラーになると分かる上・下2冊である。
 上巻は「人間のネットワーク」として、サピエンスの誕生から今日に至る人間の絆についての物語を分かり易く解説。下巻は「AI革命」と題して、AIそのもののユニークな解説を展開する。世界の独裁者、プーチン・トランプ・習近平等々がAIをどのように活用するかで世界史が一変するかもしれないと思いながら読み始めた。

 本書は「サピエンス全史」(2016年日本語版出版)同様、余りに多くの内容が含まれており、3日間(72時間)で上下巻600余頁を十分に理解するのは不可能であったが、私が日頃知りたかった部分の傍線箇所と柴田君の訳者解説部分を以下に記して、本書の必読を推奨する次第である。
 特筆すべきは3点である。①民主主義と選挙制度については、人権と公民権を認めない民主主義や選挙制度は明らかに間違っていること、②人間の知識を総合した人工知能をAIと訳しているが、これがエイリアンの知能と訳したとき、そのもつ意味が理解でき、同時にその利用価値についても分かりかけたこと。③人間社会も超高齢化が進み、長老や仙人、悟りを開いた人々が多くなった今、この人達の活用を考えることの意義を、本書から学ぶことになった。 日本人の多くは、私も含めて、民主主義の本質をよく理解していないため、私たちが本書から得るものはことさら大きい。

 『ヒトラーは、民主的な選挙で権力の座に就いてから数か月のうちに、ユダヤ人と共産主義者を強制収容所に送り始めたし、アメリカでは民主的に選ばれた多くの政権が、アフリカ系アメリカ人やアメリカ先住民、その他の虐げられた人々の選挙権を奪ってきた。もちろん、民主制に対するほとんどの攻撃は、もっと目立たない形で行なわれる。ウラジーミル・プーチンやオルバーン・ヴィクトル、レジェップ・タイイップ・エルドアン、ロドリゴ・ドゥテルテ、ジャイール・ボルソナーロ、ベンヤミン・ネタニヤフのような強権的な指導者の経歴は、民主制を利用して権力の座に就いた指導者が、その後、自らの権力を使って民主制を切り崩す実例を示している。』

 『だが民主制では、多数派の支配が及ばない権利のカテゴリーが二つある。一方は、人権のカテゴリーだ。たとえ国民の99%が残る1%を皆殺しにしたくても、民主社会ではそれは禁じられている。なぜならそれは、最も基本的な人権である、生命に対する権利を侵すからだ。人権のカテゴリーには、就労する権利やプライバシーに対する権利、移動の自由、信教の自由など、他にも多くの権利が含まれる。これらの権利は、分権化という民主制の本質を神聖なものとして大切にし、人々が誰も他者を害さないかぎり、適切と思う形で人生を送れるようにしている。
 権利のきわめて重要なカテゴリーの二番目には、公民権が収まっている。公民権とは、民主制というゲームの基本的なルールであり、自己修正メカニズムを神聖なものとして大切にする。公民権のうち、明白な例が選挙権だ。仮に多数派が少数派の選挙権を奪うことを許されたなら、民主制はたった一度の選挙の後に終わりを告げる。公民権には他に、報道の自由や学問の自由や集会の自由が含まれ、そうした権利のおかげで、独立した報道機関や大学や反対運動は、政権の正統性を問うことができる。』

 下巻の「AI革命」については、訳者解説から、以下の文章を引用することで本書の情報を共有したい。
 『全世界を揺るがせている「AI革命について、より正確な歴史的視点を提供する」ことを目指す本書』では、『従来は「AIは『Artificial Intelligence(人工知能)』の頭文字だった」が、「『Alien Intelligence(人間のものとは異質の知能)』の頭字語と考えるほうがいいかもしれない」と著者は言う。「AIは進化するにつれ、(人間の設計に依存しているという意味で)『人工』である程度が下がり、より『エイリアン(人間とはまったく異質のもの)』になってきているからだ。」』

 『「ネクサス[NEXUS]」は、一般には「つながり」「結びつき」「絆」「中心」「中枢」などを意味するが、本書ではさまざまな点を繋げている情報がネクサスとなる。
そこから思い出されるのが、「サピエンス全史」で語られていた虚構と協力だ。サピエンスが地球の覇者になれたのは、多数の見知らぬ者どうしが協力する能力に負うところが大きい。……協力はネットワークと読み替えられるし、虚構は情報の一種であり、ネットワークの要として機能すれば、これがすなわちネクサスとなる。
 ここで肝心なのだが、ネクサスは秩序を生み出さなければネクサスたりえない。秩序がなければネットワークは維持できないからだ。』

『近年、さまざまな国がソーシャルメディアを悪用して敵対国の選挙結果や人々の行動に影響を与えようとしていることは周知のとおりだ。そうした活動やデータの奪取を防ぐためには、国家間での情報の流れを遮断したり、国内で独自のデジタルネットワークを開発したりすることになる。著者はそのような遮断の仕組みを、冷戦時代の「鉄のカーテン」になぞらえて「シリコンのカーテン」と呼ぶ。こうして人類は、ライバルのデジタル帝国間に下りた新しいシリコンのカーテンに沿って分断されかねないのだ。』

Blog135 陣内秀信・稲益祐太編著「アマルフィ海岸のテリトーリオ:大地と結ばれた海洋都市群の空間構造」(鹿島出版会 2025.1.30)を読んで

 

 2025年1月19日(日)、伊豆稲取温泉に家族旅行する前日、本書が贈られてきた。2009年、織田裕二・天海祐希を主演に全編イタリアロケしたサスペンス映画「アマルフィ女神の報酬」の舞台装置を解説してくれるかの如き美しい表紙を見て、「はじめに」と「おわりに」を読み、陣内先生に御礼の葉書を書いて後、本書を伊豆旅行に持参してゆっくり読むことにした。幸い、この旅は「特急サフィール踊り子号」というアマルフィ海岸の如きダークブルーの車体と乗り心地から、車窓の風景も伊豆の青い海と空に似て、本書を読むにふさわしいかと考えてのことであったが、実際に熱海を過ぎて宇佐美から下田までの海岸線は本書のスケールと同じであったが、全く「似て非なるもの」であった。

 本書の調査、海岸とテリトーリオについて読み始めて分かったことは、絶壁沿いの高密度住宅群・教会・商店・広場・ドーモ・道路・小路・内外階段・バルコニー・ベランダ等々、一体化した立体起こし図、俯瞰図、詳細な断面図や平面図に写真を挿入しての頁をめくる度に、限りなく世界遺産都市としての歴史と宗教と日常の生活感覚を与えてくれる本書の密度は、迷宮都市アマルフィの実態を伝えてくれる。

 頁をめくる度に、伊東を過ぎ、東伊豆海岸線の漁港や海岸の砂浜等、遠くに見える伊豆七島の風景は同じに見えるも、都市国家の中心としてのアマルフィ地方では水力発電所や製紙工場、製鉄所まで建設された程の傾斜地で、伊豆よりは大きくて深い谷や河川が連なっている。しかし山奥の山脈には湧水や集落のあるところは、伊豆も同じように思われるが。

 伊豆高原駅は、1970~2020年迄の50年間、私の伊豆山荘の最寄り駅で、城ヶ崎や八幡野漁港は魚釣りの拠点で、季節毎にこの地に遊んでいたから、この別荘地はアマルフィと全く異なる景観であり、テリトーリオであることだけは本書で十分に伝えられた。

 陣内先生は地元のアマルフィ文化歴史センターの支援を得たというが、その分は本書の出版で十分に還元された。次なるステップで、地元の新鮮な食材とワインについての報告が楽しみである。伊豆稲取の銀水荘で出された「金目鯛の姿煮」や地酒の「大吟醸  銀の海」は絶品であり、この点での日本はイタリアに十分「太刀打ち」できると確信した。

 海洋都市国家として世界史的スケールで蓄積されたアマルフィ海岸周辺諸都市の実態を15年間(1998-2003、2010-2017)も調査あれた成果を東伊豆の集落と比較すること自体荒唐無稽に思われるであろうが、20~30年前にイタリアの留学生を山荘に案内したとき、伊豆は自分の田舎と同じ空気で、とても喜んでくれたことを想い出したからかもしれない。

Blog134 家族旅行で稲畑耕一郎先生と再会

 2025年の稲畑先生の賀状に「喜寿になって、中国の大学に3年、栄誉教授として勤務することになったので、3月から当分、中国滞在」との知らせ。

 45年前の1979年末、私の中国滞在中に家族3人(妻と小学生の娘と息子)を中国まで連れてきて下さって一週間、その上、先生だけは2ヶ月も中国に滞在して私の支援をして下さった当時を思い出す再会の機会、1月20日(月)の夕食を横浜のSCANDIAで、45年ぶりに稲畑先生御夫妻と私の家族全員6人の楽しい夕食会をもつことができた。

 何しろ当時の中国は自立更生時代、貧しいながらも日中友好で近代化を目指す中国と近代化の結果、熱くなる大都市への危機感をもつ日本の都市環境学への警告を得るための交換学習の日々であった。今日の地球環境問題を考えれば、今一度、昔の中国のあり方を再考する時に思えての再会であった。

 ところで、5年程前に伊東山荘を売却したお金で、年一回の家族旅行をすることになったが、正月は余りに宿代が高価な上、サービスが悪いことから、正月明けの1月19日(日)、巨大駅舎になった新宿南口の5番線から特急サフィール踊り子(Saphir ODORIKO)のプレミアムグリーン車へ。車体のダークブルーはフランス語の“SAPHIR(サファイヤ)”を意味し、「伊豆の海と空」をイメージすることから名付けられた特急だけに、なかなかの乗り心地であった。

 熱海はインバウンドに犯されている昨今に比べて、伊豆稲取のホテルは十分に空きがある上、「銀水荘」の料理、特に金目鯛の姿煮と地酒「銀の海」は絶品であった。

 幸いにも翌日の下田は天候にも恵まれ、白浜神社から爪木崎の水仙と白浜の景観は実に美しかった。何度も下田を訪れて気になっていた下田ロープウェイで寝姿山の遊歩道を歩いて、下田港や伊豆七島を見渡し、すっかり解放されての旅人気分。

 幸い帰途も最後のサフィールの乗車券が入手できて、下田から横浜駅へ。
 巨大な横浜駅から、みなとみらい線で「日本大通り駅」下車。優雅な県庁舎からSCANDIAの見慣れた建物へ。そして稲畑夫妻と家族の昔話に至福の時間を過ごした。

Blog133 村上陽一郎著「科学史家の宗教論ノート」(2025.1.10 中央公論新社)を読んで

 Blog50で、2022年2月出版の「エリートと教養」の六章で生命と教養についての考えを示され、次は「宗教」との予告通り、今度、本書を出版された。しかも実に分かり易く、科学史家としての立場で。

 本書の出版前に、2022年10月に「専門家とは誰か」(Blog74参照)を、また2023年9月には「音楽 地の塩となりて」(Blog94参照)を出版された。体力の限界と聞いていた先生が次々と出版される様は、建築界の先達で、1967年に文化勲章を受章されてなお、これが最後の遺作と称しながら、その後の作品の方が多かった村野藤吾(1891-1984)先生のことを想い出す。

 村上先生に宗教について書いて欲しかったのは、Blog102(2023年12月)「原発鎮守として、各地の一宮から鳥居を勧請する夢」を報告し、さらに2024年10月に「都市環境学を開く」(鹿島出版会)の第1章で「原発の使用済み核燃料の廃棄保存や緊急事態の住民避難を考えれば、科学的に「安全」を保障することは当然として、「安心」については神頼みとして、各国一宮からの鳥居の勧請で周辺住民は氏子となることを期待しては如何かと。結果は、多くの友人達から原発の安全安心を放棄して再稼働を容認する無責任な発想として非難されることになった。

 しかし今日、原発の再稼働が次々に進められ、第7次エネルギー基本計画でも原発推進を容認するしかない現状を考えると、原発周辺に生活する住民側の立場で考える限り、原発からの「災い」や「穢れ」を取り除く仕掛けとして、安全・安心の守り神である地域の一宮を勧請するという私の考え方についての賛否を村上陽一郎先生に聞きたいと願っていた。

 かくして、私が本書から学んだことは、全ての宗教は「知る」と「信じる」ところを起源として、「人類は本能の壊れた動物である。本能の中に具備されている筈の欲望抑制機能を破壊してしまった結果としての産物が原発であると考えれば、人間がその回復を託した宗教によってしか今日の原発に対する住民の安心が得られない」と解釈してよいであろうが、こんな無責任な解釈をした上、本書を勝手に解釈することで、私の自己実現の一如にさせてもらう幸せを宗教が与えてくれることも学んだ。

 読後感は実に爽やかで、今日のロシアのプーチン大統領がウクライナを侵攻した理由やイスラエルのネタニヤフ首相がガザ地区での非人道的空爆を続ける理由、さらにはイスラム教のコーランはムハンマドの口伝であることは知っていたが、メッカとメディナの両方が聖地である理由やインドネシアのイスラム教の実態、インドのモディ首相の言動なども本書で学ぶことができた。昨今読んだ本で、これほど短時間に多くの理解できない社会現象や世界状況まで知ることが出来たのは、教養としての宗教をベースに、「知る」ことと「信じる」ことの意味が分かったからか。AIが科学と宗教を結ぶ鍵であり、デカルトの「もの」と「こころ」についてまでも。

       科学史家の宗教論ノート (中公新書ラクレ 831)

  末筆ながら、終章の「信仰と私」で、村上先生が「信じる」ことと「愛する」ことについて『両者は類似で、平行の現象と言えそうです』という記述、先生自身がカトリシズムに止まるのかについて書かれたこと。私自身が今年の年賀状で『余生は自己実現に努めたい』と書いてしまって後悔していたが、先生の「あとがき」を読んでホッとしたことなど、何はともあれ、本書の恩恵に浴したことに感謝して。

附記

「文藝春秋」2月号の緊急特集「崩れゆく国のかたち」で、ユダヤ教である仏の歴史人口学者のエマニュエル・トッド氏が「イスラエル・ガザ紛争」について記された文中に「宗教の三段階」と題し、第一段階は、人々は信者としてミサや日曜礼拝に行き、安息日を守る(宗教の活動的状態)。第二段階は(宗教のゾンビ状態)で、人々はもはや信者ではなく、ナチズムなど政治的イデオロギーが宗教の代替物として登場する。第三段階は(宗教のゼロ状態)で、個人レベルの道徳観も宗教的道徳観に由来する社会的枠組みも、もはや存在しない。イスラエルは宗教的に生まれたユダヤ人の国家であったが、今や信仰が崩壊し「ユダヤ教ゾンビ」の段階から、アラブ人と戦うイスラエル人の国家となり、第三段階の「本物のユダヤ人の消滅」した「ユダヤ国家」ではなくなっている。従って「イスラエル建国の父達が『神は存在しないが、神は私たちに国家を与えた』は消滅か?
 「宗教と国家」の関係を論説した、1951年生まれでカトリックの洗礼を受けたエマニュエル・トッド説をこのBlogに附記することを許されたい。

Blog132 「憲法第9条の碑」と「揺らぐ国際規範」について考える

 2025年の川村晃生先生からの年賀状に「甲府市に『第9条の碑』を建立する実行委員会をつくるに当たって、事務局を自宅に置き、運動を始めました」とあった。
 

 丁度この日「ロータリークラブ在籍60年」を書いている最中で、メンバーであった(一財)IDCJの品川正治会長から生前に聞かされた話を引用していた。
『あの悲惨な戦争で日本人は310万人、アジア太平洋では2,181万人(中国ではこれにプラスすること1,000万人)の人々が亡くなった。戦争は、勝つためには敵ならず味方の生命さえも鴻毛の軽きにおく。戦争させない力である憲法第九条2項を持っている国は日本のみである。この憲法を制定する時期だけが日本国に軍がなかった。そんな時期が偶然あったからこそ、この日本国憲法の第九条2項が生まれた。第九条「戦争の放棄と戦力及び交戦権の否認、2.前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。」

 私のロータリー歴で最も影響を受け、お世話になった品川正治氏の遺言ともいえる「九条を守れ!!」いう言葉をどのように実践すればよいか分からなかったが、今度の川村先生からの「憲法第9条の碑」をつくるための募金活動を支援するのが第一歩かと考えた。

 この日の朝日新聞の社説で、人道理念(揺らぐ国際規範)で「先の大戦から80年、国際社会が積み上げてきた『人道法』というルールがいともたやすく破られ、人命が理不尽に奪われていく-略-大国による二重基準として、大国の横暴はロシアだけではない。-パレスチナ自治区ガザでの戦争だ-略-ハマス壊滅を掲げた軍事作戦は苛烈を極めた。このイスラエルを米国は「特別な同盟国」として5度の停戦を求める決議案を拒否権を行使して否決し、武器の供与も続けた。
 国際刑事裁判所(ICC)はロシアのプーチン大統領、イスラエルのネタニエフ首相に逮捕状を発行した。前者を「当然だ」と評価したバイデン大統領は、後者については「言語道断」と非難した。米ロや中国はICCに加盟していない。ロシアはICCの赤根智子所長を指名手配し、米国は経済制裁をちらつかせる。」

 日本外交の柱の一つに国連中心主義があり、日本国民は『人の命を守る』民主主義を重視し、憲法や国連・国際法を守るという実績を積み重ねてきた。

 2024年の賀状でも川村先生から「金葉和歌集」(岩波文庫)が送られて、1月12日のBlog108で報告したが、2024年中は毎週テレビで平安中期の日本の一番平和な時代の物語『光る君へ』を楽しませてもらったが、2025年の賀状は「戦争」という大きなテーマを持つことになった。

  1月6日、先ずは近くの郵便局で10口を送金をして、今年の仕事始めとさせてもらった。

Blog131(一社)都市環境エネルギー協会の2025年年頭所感

 大阪・関西万博が、愈々4月13日(日)~10月13日(月)の184日間、「いのち輝く 未来社会のデザイン」をテーマに、大阪市の人工島「夢洲」で開催されるに当たって、当協会も9月1日(月)には恒例の第32回シンポジュームを大阪ガス本社ビルのホールで開催し、翌2日にはEXPO’25会場のバックヤード見学ツアーを計画中です。皆様のご参加を期待しています。

 2024年5月に閣議決定された第六次環境基本計画では「高い生活の質として、ウエルビーイングの実現」を目指すこと。また年末に決着した第7次エネルギー基本計画では、4~5割は再生可能エネルギーとしても、エネルギー安全保障の面から、原子力や化石エネルギーも考え直せざるを得ない状況下にあって、当協会もDXやGX推進法の施行下、企業の脱炭素化投資を後押しする20兆円の国債や2050年に向けてのカーボンフリー達成に当たっての150兆円投資の有効利用を考えざるを得ません。

 こうした国の支援に応えるべく、当協会の2025年度目標は、EXPO’25会場のレガシーを活用しての「大阪夢洲地区BCD・脱炭素化推進委員会」や阪神・淡路大震災から30周年を期しての「神戸三ノ宮駅周辺カーボンニュートラルBCD委員会」の実装を強力に推進すること。
加えて、東京都の地域エネルギー供給における脱炭素化の推進制度の支援で、副理事長会の合意の下に実績を重ねてきた
 ①中央区BCD・カーボンハーフ推進委員会
 ②港区BCD・カーボンハーフ推進委員会
 ③豊島区BCD・カーボンハーフ推進委員会
 ④新宿区BCD・カーボンハーフ推進委員会の実装。
 さらには、令和6年3月、環境省による一般廃棄物処理事業における地方公共団体実行計画ガイダンスに基づき、ゴミ焼却場からの排熱やCO2の有効利用をベースに、
 ⑤横浜都心臨海部BCD・脱炭素化推進委員会
 ⑧名古屋都心部BCD・脱炭素化推進委員会
 ⑨福岡天神地区BCD・脱炭素化推進委員会   等についても再検討する予定です。

 2025年1月には、米国のトランプ大統領の就任で世界状況が一変するとの予測もありますが、今年からは当協会の第7期中期計画の策定に基づいて実績を重ねて参る所存です。
会員皆様の御支援御鞭撻をよろしくお願いする次第です。

Blog130 2024年のOB忘年会で米寿から卒寿を展望

 2024年12月27日(金)、自宅で忘年会を開催することになったのは、Blog126で報告した「米寿祝賀会」と建築会館ホールで「都市環境を開く」を用いた講演会の高揚感もあった。幸い14人もの参加者を得て、NPO-AIUEは私の自己実現の場として活用させてもらうことにした。唯、自民党の裏金問題等、お金の流れに関して、コンプライアンスが厳しくなって、NPOとしてもこの点は気をつけるべしとの意見から、あくまで個人の指定寄附を中心に、テーマ毎にOBの同窓会方式にすることで決着する。

 当日は晴天であったが年末の寒風吹く中庭で、渋田君のピザ窯で焼き上げた特製ピザをメインに、乾杯後、写真の如き室内での賑やかな宴会となり、人生百年時代にあって、こうした共生の場の有り難さを痛感して、再生NPO-AIUEの催事を考えてみた。

 2025年4月には新理事の登録と再生第1回理事会は自宅庭での観桜会として、第2回は6月の総会、第3回は8月の八ヶ岳合宿、第4回は9月2日の大阪・関西EXPO見学、第5回は12月の忘年会を予定する。

 NPO-AIUEの新理事候補は、忘年会出席者である尾島・中嶋*・(熊谷)・市川・吉田*・前川・佐土原*・今泉*・村上*・高口*・原*・渋田*・松原*・(長谷見)他に加えて、支部長の森山・西岡・須藤・依田君他にお願いすることにして、登記は*印の10人を常任理事推しては如何であろう。

2025年度に期待される寄附研究として
1)国際投資研究会(尾島州一・市川徹)
2)八ヶ岳研究会(尾島俊雄・福島朝彦・増田幸宏他)
3)北陸・東海支部の活性化支援(松原純子・西岡哲平・原英嗣・渋田玲)
  富山都心再開発(ギャラリー太田口の活用)や名古屋中心C.N.とBCD計画
4)海外からの水素サプライチェーン調査(吉田公夫・佐土原聡)
5)日本各地のBCDとC.N.研究(中嶋浩三・佐土原聡・村上公哉・増田幸宏)
6)「尾島研究室の軌跡」出版とBlogの発信(尾島俊雄
7)(一社)AIUEの国際会議支援(福田展淳・高偉俊他)
  国際会議(第22回以降の継続支援)
8)NPO-AIUEの理事会と催事の事務局機能(吉田公夫・渋田玲他)

 理事・支部長他の年会費をベースに、研究会は会員個人の指定寄附。毎年1回は支部主催の「この都市のまほろば研究会」。
 以上、OB・OG達との共有可能な自己実現の場を創る。如何であろうか。

Blog#129 三谷産業のベトナム創業30周年行事に参加して

 2024年11月12日(火)~15(金)、ベトナムのハノイ市とフエ市を訪問したのは、三谷産業グループのベトナム創業30周年記念行事に出席するためであった。2006年8月、初めてのベトナム訪問時については「この都市のまほろば Vol.3」でハノイとホーチミン市について記した。フエ市は今回が初めてである。1990年頃から早大の中川武教授や佐藤滋教授等がフエ氏の文化遺産や都市計画の調査をしていたことから、10月28日、佐藤先生からフエ市の状況をヒアリングした結果、非常に興味深い都市で、研究の価値ある都市と考え、三谷産業の三浦秀平氏に早大と交流あるフエ科学大学の訪問をお願いした。

 11月13日(水)、ハノイのHotel du Parc(2022年リニューアル 5星)に宿泊。新設されたHo Guomオペラハウスでの三谷産業の記念式典に出席する。ベトナムの元計画投資大臣VO HONG PHUC氏、日本国特命全権大使の伊藤直樹氏、三谷忠照社長のご挨拶は実に素晴らしかった 。
 ベトナムでの創業者・三谷充氏は大学やグエン・ファン・チャン絵画保存修復などの文化活動を再認識する。夕食はNgon Gardenでのベトナム料理。

 11月14日(木)、三谷のベトナム7社は4拠点に2,400人を雇用。ハノイのACSD社(Aureole Construction Software Development Inc.)は、BIMを中心に活動し、そのオフィスは都心から45分、2009年新設された2万5000社が集中するIT特区にあった。平均年齢30才、離職率10%という超優良企業として、日本の建設業を下支えしている様子に感動する。
午後はハノイからフエ市へ。1時間程のフライトであったが、空港での待ち時間が長く、4~5時間を経てフーン川辺のシルクパスホテル(SILK PATH HOTEL))に到着。
 夕食はベトナム海鮮料理のDuyen Anhで賑やかな夕食会となった。

 11月15日(金)快晴。早朝の散歩はハノイと違って、静かで快適だ。
 8:00~10:00am、フエ科学大学訪問。建築学部長は、2009年頃から3年間、京大に留学したNGUYEN NGOC TUNG氏を中心に8人程の先生方とダン常務の通訳で話し合う。建築学部の先生は23人、学生は5年制で400人、これからのテーマとしては、①BIMでの点群計測、②ハザードマップやスマートシティ、③都市のカーボンニュートラル(JCM)、④交換教授の助成等々について意見交換した後、環境学部の副学長LE LCONG TUAM教授と共同研究の大切さについて話し合った。
 10:00~12:00am、グエン朝王宮の視察。王宮門(午門)、1970年再建された太和殿、太平楼、フラッグタワー、ロイヤルシアター(閲是堂)等々を見学。予想以上に広大で、北京の紫禁城にも匹敵する敷地に点在する庭園や破壊された建物跡地に驚く。多くの観光客と一緒に日本語のガイドについて歩く間、日除けの傘を差しても暑く、一休みして飲んだココナッツの生ジュースは格別であった。
 昼食は家庭料理で有名なCHANでベトナム料理を堪能する。
 午後、2018年開設のACSDのフエ支店を訪問。240人のBIM作業者が働く現場を視察後、ホテルに戻り、フエ空港経由、ハノイ空港から成田空港へ。両空港での延べ5時間以上の待ち時間中、花田光世先生には実に多くの人間関係、特にウェルビーイングのあり方について学ぶことが多く、豊かな時間をもつことができた4度目のベトナム訪問であった(第1回:2006年8月、第2回:2012年9月、第3回:2019年はホーチミンで25周年行事)。

三谷産業ベトナム創業30周辺記念式典
パーティ(オペラハウス)
Office
SILK PATH HOTEL(フエ市)
会食(Duyen Anh)
フエ王宮(午門)

Blog128 三陸リアス海岸エリアにおける「防潮堤の景観」を考える

 東日本大震災から十余年が経過したいま、防潮堤の議論を冷静に振り返り、選ばれた結果が適切だったのか否かを再検討したい。特に、当時の議論において「景観」がどう位置づけられ、あるいは位置づけられなかったのか、景観学の観点から再検討したい。

基調講演:山路 永司 (東京大学)
調査報告:齋藤 正己 (法政大学)
     成田イクコ(センスアップ・プランニング)
     西原 聡 (中央開発)
コメント:尾島俊雄 (早稲田大学)
ディスカッション:発表者ほか

▢コメント
 「景観」とは「主体」から「客体」に向けられた「視線」の存在を前提とする。一般に「客体」である実景をつくるのは建築家(土木技術者)であり、防潮堤の場合、多くは土木技術者である。建築家は実景の創造に当たって「強・用・美」を不可欠とする。防潮堤は高潮や津波に耐える機能(用)と強さに加えて、美しくなければならない。
 「主体」とは、被災地におけるイ.居住者、ロ.漁師等、海で業を営む人、ハ.旅行者(観光客)、ニ.(B/C)の公共事業者。

▢山路永司先生の基調報告に対して
 東北三県に及ぶ被災地全域を十分に調査された上で事例報告として、宮城県南三陸町の志津川周辺に焦点を当て、防潮堤の景観を考察された。当地は、1896年の明治三陸津波で441名、2011年の東日本大震災で620名もの死者を出した。その津波被害の遺構として、南三陸旧防災対策庁舎が残されて、周辺に造られた海拔20mの築山「祈りの丘」公園から市街地を遠望して、自然の風光明媚なリアス海岸の「清水(しず)漁港」や「伊里前(いさとまえ)漁港」の河川改修や大堤防や高台移転の民家を考察。この地は自然景観を保護すべき陸中海岸国立公園内であり、また自然遺産の破壊を禁止したジオパークにも指定されている。美しかった漁港の巨大防潮堤や水辺に近づけなくなった河川改修の大堤防は、景観学の観点から見れば許せない景色であって、景観破壊のモデルといってもよいのではないか。「三陸復興国立公園」と名称変更したことで、これを「創造的復興」と称するのは景観学として許しがたいと考えるが。

▢齋藤・成田・西原さんの報告に対して
 岩手県と宮城県の三陸リアス海岸エリアの防潮堤について検討されて、
①西原報告の岩手県大槌町については、B/Cの土木技術者の立場としては素晴らしい復興事業で、JR山田線の駅舎や水門の景観。しかし、地元のコミュニティや未利用空地が心配。

②齋藤報告の岩手県釜石市の宝来館については、「津波てんでんこ」の教えで、「釜石の奇跡」を生み、高台に学校、低地にラグビー場等、適した防潮堤と逃げる「あり方」をソフト解とする。

③成田報告の宮城県気仙沼市大谷の海岸は、「気仙沼横断橋」や「鉄道駅」や「道の駅」の建設で、巨大防潮堤はその手段として活用。大谷の美しい砂浜や海岸の里海を守る市民参加は有意義。

④石巻市の雄勝町は「日本一美しい漁村」であった筈で、これは南三陸の清水漁港や伊里前漁港と同じで、日本の景観美を破壊。

⑤宮城県の女川町は、適切なまちづくりに成功(海の見える商店街)した様子。

▢日本大震災遺構を中心に世界遺産登録を提言
 東日本大震災の復旧復興に投資された国費は10年間に32兆円(Blog15で、岩波ブックレット(2021年出版)に詳細)、(Blog28で、2021年6月、災害から10年の視察)で、岩手県と宮城県・福島県の各一ヶ所、建設された復興祈念館を見学する限り、その巨大な施設とこれからの維持管理費を考えれば、これを景観学の見地からの対象として世界遺産登録することで観光客を誘致する必要性を痛感した。景観学会での講演を聞きながら、登録申請協力者(案)として、復興庁/東北三県/日本景観学会/伊藤滋/中島正弘/五十嵐敬喜/内藤廣 等の著名人を考えてみた。