2025年1月19日(日)、伊豆稲取温泉に家族旅行する前日、本書が贈られてきた。2009年、織田裕二・天海祐希を主演に全編イタリアロケしたサスペンス映画「アマルフィ女神の報酬」の舞台装置を解説してくれるかの如き美しい表紙を見て、「はじめに」と「おわりに」を読み、陣内先生に御礼の葉書を書いて後、本書を伊豆旅行に持参してゆっくり読むことにした。幸い、この旅は「特急サフィール踊り子号」というアマルフィ海岸の如きダークブルーの車体と乗り心地から、車窓の風景も伊豆の青い海と空に似て、本書を読むにふさわしいかと考えてのことであったが、実際に熱海を過ぎて宇佐美から下田までの海岸線は本書のスケールと同じであったが、全く「似て非なるもの」であった。
本書の調査、海岸とテリトーリオについて読み始めて分かったことは、絶壁沿いの高密度住宅群・教会・商店・広場・ドーモ・道路・小路・内外階段・バルコニー・ベランダ等々、一体化した立体起こし図、俯瞰図、詳細な断面図や平面図に写真を挿入しての頁をめくる度に、限りなく世界遺産都市としての歴史と宗教と日常の生活感覚を与えてくれる本書の密度は、迷宮都市アマルフィの実態を伝えてくれる。
頁をめくる度に、伊東を過ぎ、東伊豆海岸線の漁港や海岸の砂浜等、遠くに見える伊豆七島の風景は同じに見えるも、都市国家の中心としてのアマルフィ地方では水力発電所や製紙工場、製鉄所まで建設された程の傾斜地で、伊豆よりは大きくて深い谷や河川が連なっている。しかし山奥の山脈には湧水や集落のあるところは、伊豆も同じように思われるが。
伊豆高原駅は、1970~2020年迄の50年間、私の伊豆山荘の最寄り駅で、城ヶ崎や八幡野漁港は魚釣りの拠点で、季節毎にこの地に遊んでいたから、この別荘地はアマルフィと全く異なる景観であり、テリトーリオであることだけは本書で十分に伝えられた。
陣内先生は地元のアマルフィ文化歴史センターの支援を得たというが、その分は本書の出版で十分に還元された。次なるステップで、地元の新鮮な食材とワインについての報告が楽しみである。伊豆稲取の銀水荘で出された「金目鯛の姿煮」や地酒の「大吟醸 銀の海」は絶品であり、この点での日本はイタリアに十分「太刀打ち」できると確信した。
海洋都市国家として世界史的スケールで蓄積されたアマルフィ海岸周辺諸都市の実態を15年間(1998-2003、2010-2017)も調査あれた成果を東伊豆の集落と比較すること自体荒唐無稽に思われるであろうが、20~30年前にイタリアの留学生を山荘に案内したとき、伊豆は自分の田舎と同じ空気で、とても喜んでくれたことを想い出したからかもしれない。