内田祥哉先生「逝去」と田辺新一君の「COVID-19報告」に接して

 2021年5月3日、建築界で唯一の学士院会員であった内田祥哉先生が96才で老衰のため逝去されたとの朝日新聞報道に、人生百年時代はまだ遠い先に思えた。内田先生は東大建築学科の教授として多くの直弟子を育てられたのみならず、他大学の学者にとっても崇敬すべき指導者であった。

 日本建築学会会長時代には、私自身、副会長として馬前を駈けたことや、日本学術会議の後任として、伊藤滋先生や私を推薦してくださったこと等、全く専門が異なるに拘わらず、何時、何処でお会いしても常に適切な助言をくださったことや、常々先生の御尊顔を拝すると何故か励まされるのだった。

 私が80才を過ぎて隠居の相談をしたところ、2019年の内田先生の年賀状には「まだまだ現役であるべき」との返事。2020年は何事もなく、今年は寒中見舞いで「段々と社会から遠ざかっています 祥」との便りであった。

 同じ丑年生まれで、私より12年先輩として、コロナ禍であっても、まだまだ頼りになる先駆者と考えていただけに、この一筆に限りない淋しさを感じていた。長年の御厚情を謝し、御冥福を心からお祈り申し上げる次第です。

 こんなBlogを書いているとき、空気調和・衛生工学会誌2021年5月号が贈られてきた。

 「新型コロナウィルス感染症の現状とその対策(1)」特集の冒頭に、田辺新一君の報告があった。私自身、この一年半、COVID-19パンデミックは、都市環境分野のみならず、日常生活にも多大な影響を受けているだけに大きな関心事で、多くの文献や資料を読んでいた。

 然るに、田辺君の報告は実に簡にして要を得ており、日本の各界や海外状況をこれ程少ない頁で上手にまとめ上げるには、余程の腕力がなければ書けないと実感する。常々いろいろな学会誌の読みにくさは老化のためのみとは思えない。この田辺リポートは、熟読の上、充分に理解し、役立つ。

 田辺君はこの6月から日本建築学会の会長に就任する上、日本学術会議の建築界を代表する二人の内の一人の会員でもあることを考えれば、このような報告は慣れていることかと、改めて納得した次第。

 内田先生の如き素晴らしい先駆者の逝去に接し、悲しんでいた時に、田辺君の如き良き後輩の活躍が期待できると知って、この長い連休を終えホッとしている。

 田辺リポートのまとめ『感染症が終息した後もその前の世界に戻ることはないと考えられる。この間の経済的な落ち込みは我が国だけでなく世界的に大きく、経済復興に関しても道筋をつけていく必要がある』を最後に引用して。