Blog#62 2022年度現代総有研シンポジューム「土地は誰のものか」に参加して

 2022年7月26日(日)2:00~4:00pm、五十嵐敬喜先生と元農水省事務次官の奥原正明氏の対談、司会は弁護士の日置雅晴氏をwebで聞くことができた。共鳴する内容が多い上に、もっと早くこのような日本の状況を知っておればと残念に思えたこと等を記して、私の理解に間違いがなかったか、現代総有研の方々に聞いた上で、このBlogを公開することにした。

 まず、奥原氏の農水官僚40年の体験談は実に明快で、最後の5年間に大仕事をされた2013年の農地バンク法の制定についてである。

 戦後の農地解放は多数の零細な自作農という生産性の低い農業構造を作り出し、しかも、農地を所有したことで、農地の流動化も進まなくなったため、農業の競争力は向上しなかった。昨今、人口減少に伴う都市での空地・空き家の増大、農地の耕作放棄問題は喫緊の課題である。農地の責務と活用に当たっての政策に、地方自治体等の公共機関をベースにした第三セクターで農地バンクをつくり、零細農地や耕作放棄地を預かり、それを有効活用する企業を含めた農業者に貸し付ける制度である。「農地の有効利用を」は名案であるが、この仕組みの活用を加速するには強制力のある措置を考えることも必要とのこと。

 江戸時代の大岡裁きの(「三方一両損(三方二両得)」の解が出来たのは、大岡が一両損をすることができたので)、農地バンクの有効利用には第三セクターに一両損をさせることが出来ない今日に問題があるのではないか。

 何故なら、私自身、2015年初春、M社の依頼で「アーバンアグリカルチャー株式会社」の設立を依頼されて、2016年5月、オランダの植物工場を視察。大規模化あっての経営であることから、千葉県佐倉市のK農家とともに、2017年に第1期0.2haのK氏の農地で試作、第2期は2019年度2haで、K氏の一族の農地で、第3期は2020年に企業10社の出資で20ha~30haと大規模化する計画であった。しかし、第3期の段階から農地の手当が、K氏の人徳では進まず、地元農業組合との度重なる打ち合わせと契約条件の折り合いの面倒さから、このプロジェクトは失敗した。この時にもし信頼出来る千葉県の第三セクター(農地バンク)が手助けしてくれていたら、と奥原氏の話を聞いて残念に思えた。

 五十嵐先生のタワーマンションの区分所有者に対する心配については、既に先生の出版された「土地は誰のものか」(岩波新書)の書評を書いたが、本日の話題にもあったので一言。

 土地と建物の違いは「建物は必ず劣化し無価値になる」、然るに建築基準法では、国が最低限の安全を保証する確認受理をする。これは明らかに国が戦災復興のため建設省と建築基準法を設立して、災害等の免罪符を出すことで建設業者を育成した。勿論、その後、基準法8条で管理責任をどんどん厳しくしている。しかし、究極的に災害や劣化による建築の安全について、国が「人的災害」と思われるものまで「天災」として保証している(既存不適格建物)。その確認審査機関は既に90%以上が民間になっていることから、この制度を廃止して、民間の損害保険会社が建物の安全保障を代替することである。建物の安全について人間の健康保険のように損害保険への加入を義務化すれば、危険な空き家は保険料が高くなるから自然淘汰される。然るに今は逆で、空き家にしておいた方が土地の税金が安いという問題がある。この点等について、是非、現代総有研の皆さまでご検討されることをお願いする次第です。

 このシンポジュームは良い勉強になりましたので、是非とも継続を期待しています。