Blog#69 日野行介著「原発再稼働」(2022.8 集英社新書)から自助避難を考える

 2022年8月24日、総理官邸での「GX=グリーントランスフォーメーション実行会議」で、これまでに再稼働した原発10基に加え、追加で7基の再稼働を目指す方針を確認した。

 具体的には、福井県の関西電力・高浜原発1号機と2号機、宮城県の東北電力・女川原発2号機、新潟県の東京電力・柏崎原発の6号機と7号機、茨城県の東海第2原発、島根県の中国電力・島根原発2号機で、いずれも規制委員会の審査に合格している。

 既に再稼働している10基はいずれも西日本にあり、今回は7基中4基が東日本に立地している。来夏の再稼働に向け、地元の理解を得るため国が前面に立って対応するとして、2050年のカーボンニュートラル実現に向けて、最長60年まで可能な原発の運転期間の延長の他、次世代の原子炉の開発や建設を検討することも明らかにした。

 これまで政府は原発の新増設については「想定していない」としていた上、「年末までに具体的結論を出せるよう検討を加速して欲しい」との岸田首相発言である。この会議の後、西村経産大臣は「わが国のエネルギー安定供給を再構築すべく、あらゆる選択肢を確保していく。」経団連の十倉会長は「政府は前面に立って、原発の再稼働だけでなく、次世代炉の開発についても、官民が一体となって実用化する戦略を描く」と強調した。

 政府のこうした行動を察知しての日野行介氏の出版であることは「あとがき」を読んで理解した。日野氏は2021年度末をもって23年間勤めた毎日新聞社を退社した機に、それまでに調べ、書き続けた「フクシマの教訓を闇に葬ることによって原発再稼働が進んでいる実態を調査報道すれば、分かってもらえるかもしれない」、「国民一人ひとりの意志を押しつぶさなければ国策は進められない。役所は抽象的スローガンを出し、冷酷な本質を隠し続ける。国策と対峙するのは『狂気と執念』だけ」としての出版とある。

 しかし私自身の考えは、第一部の「安全規制編」で、再稼働ありきの原発規制は確かに多くのウソがあるとしても、福島原発事故から10年間に原発施設に投下された安全対策への投資は、全く無駄ではなかったと思われる。現地を視察した者として、確率の少ない自然災害に対して、それぞれの電力会社はよくぞこれ程の投資を成し遂げたものと思っている。

 しかし、第二部の「避難計画編」では、フクシマの反省から避難計画がなければ再稼働ができないはずが、どうして既に10基も再稼働していて、これから7基も来夏には再稼働できるのだろうかと信じられない思いがする。この編でよく分かったのは、プーチンのウクライナ侵攻に対して、ロシア国民から信頼と賛同を得るためには全てに騙しという非人道的手段を用いているのと同じで、これこそが著者の民主主義の破壊そのものという意味が理解できた。

 捕逸に記された広瀬弘忠氏の鹿児島、静岡、新潟での住民アンケートに伴走されての感想として、「まず再稼働したいという強い欲求だけあって、それを実現するためにデタラメな避難計画を作って、最後に簡単にすり抜けるという騙し方が極めてうまく、微妙なところは後出しにして、再稼働までもっていく」という語りは信じられないが、プーチン並みの強権がありそうだ。

 私自身、2014年7月、松江市の原子力災害広域避難計画の実態をヒアリングする機会があり、PAZ(5km圏)、UPZ(30km圏)の人々の避難が如何に困難かということに加えて、その訓練や長期間避難まで考えると、とてもまともではないと思えたからである。

 1991年6月、都市計画学会誌に「指定容積緩和に伴う広域避難広場の不足に関する研究」として、練馬区の容積率の緩和に対して、現況でも広域避難広場面積が不足しているのに、何故、容積緩和ができるのかを指摘した時、区側は大部分は一時避難までが限度で、広域避難広場まで辿り着けないから十分OKとの見解のあったことを思い出した。

 国にとって、何が最優先課題かによって、多くのものごとの手順や仕掛け、仕組みが役人によって目くらましが行われるのは当たり前と考えるべきなのか。今もそれが政治であり行政であるとしたら、民主主義でなく専制主義であり、中国やロシアの今日の状況と変わりなかろう。少なくとも日本は民主主義の国であれば、今少し透明性を確保し、面倒でも本当に住民参加の実行できる避難計画や避難訓練によっての原発再稼働であって欲しいものである。

 一案として、原発立地周辺を歩いて「日本は世界のまほろば2」(2015.5 中央公論新社)の(p.138-143)で記した八ヶ岳周辺部への原発避難場所(案)である。「津波てんでんこ」の避難同様、原発被災に当たっても自助・共助・公助を優先順とする。先ずはUPZの人々は可能な限りマイカー等で(要介護者をもつ家族等は事前に登録しておいて)、八ヶ岳山麓へ避難することができれば、少しでも共助や公助の助けになる。

 下図に示すように、八ヶ岳山麓から半径150~250km圏内に立地する原発は、新潟県の柏崎、石川県の志賀、福井県の美浜・大飯・高浜、静岡県の浜岡原発である。マイカーであれば2~3時間の距離にあって、広域避難場所として最適である。私たちの調査では、長野県には利用可能な空き家戸数は25万戸、仮に一戸に3人避難するとして75万人のみなし仮設住宅の供給が可能である。少なくとも、住民の生命を守る義務のある地方自治体が再稼働を許可する前に、このようなことも一考して欲しい。

八ヶ岳山麓バックアップシティ計画