Blog#111 2024年正月の熱海家族旅行で「江之浦測候所」を堪能する

 1月25日(木)、品川から東海道新幹線で熱海着。快晴とあって、駅前の賑わいはなかなか。11時半開店の「和食処こばやし」で昼食。開店10分前には10人以上の行列。4人とも自分の好きな品々、共通は金目の煮付け。

 熱海パールスターホテルは3時がチェックインとあって、熱川駅へ。伊東の山荘を一昨年処分した費用を毎年の家族旅行費に当てることになったのだ。車窓から眺める伊豆高原駅の山桃の大木や鉄道沿線の風景がもう懐かしく思える。

 熱川のバナナワニ園は1958年開園。熱い温泉が噴出する伊豆半島の名所で、1970年代に伊豆高原の山荘を建設するにあたって、当地から温泉を引いている泉源をみるために来たことがあり、バナナやワニの温室、自噴する駅前からの風景に感動した。
 その頃から50余年、全く変わらぬ駅前の温泉や自噴する大量の湯櫓からモクモクと湯けむりを上げている風景、立派になった熱川バナナワニ園は何か所にも分散している出入口に迷いながら、レッサーパンダやワニ、熱帯魚、カメ、バナナやパパイヤ、ブーゲンビリヤ、多種多様なラン等々、2時間余すっかり癒された楽しい時間。

 熱海から熱川まで1時間の普通車はリゾート21「キンメ電車」で、実に快適であったが、帰途の踊り子号もなかなかの乗り心地であった。

 4時、ホテルにチェックイン。なんと「お宮の松」の真正面だ。バブル景気以降の熱海不況下、つるやホテルが外資に売却され、その後解体。2022年9月に新しくリゾートホテル「熱海パールスターホテル」として開業。木の匂いのする、天井の高い、なかなかのホテル各室である。夕食や温泉からの景観もよく、ベランダからの御来光は格別であった。

「お宮の松」と銅像真前のホテルパールスター2Fのベランダより御来光

 チェックアウトは正午とあってゆっくり休んで、10FLの温泉に入浴。予約に苦労した杉本博司構想の江之浦測候所へ。熱海からタクシーで直行する。

 オーナーの杉本氏は1948年東京生まれ。1970年に渡米してN.Y.を中心に写真・彫刻・建築・造園・料理など、アートと歴史、東洋と西洋文化の橋渡し、2008年には建築設計事務所開設。2017年に文化功労者。昨年、森財団の講演で聴いた考え方をベースにして、世界中から迫力あるアートを収集した成果を小田原市江之浦地区の箱根外輪山を背にした相模湾を借景に、ギャラリー棟、石舞台、茶室、庭園、門などを配置。造園計画は平安末期の「作庭記」を原典に配置。

 「江之浦測候所」と命名したのは『悠久の昔、古代人が意識を持って、まずした事は、天空のうちにある自身の場を確認する作業であった。そしてそれがアートの起源でもあった。 新たなる命が再生される冬至、重要な折り返し点の夏至、通過点である春分と秋分。天空を測候する事にもう一度立ち戻ってみる、そこにこそかすかな未来へと通ずる糸口が開いているように私は思う。杉本博司』

 「夏至光遙拝100メートルギャラリー」や冬至光遥拝隧道など、建築的には実に見事な空間認識装置である。古墳時代の石像鳥居、千利休作「待庵」の本歌取りした茶室「雨聴天(うちょうてん)」、根府川石の浮橋、天平時代の東大寺七重塔礎石等々。十分に刺激的な個人収集博物館であった。70代の杉本氏が100才迄活躍すれば、どれ程この施設も充実するか、楽しみである。

江之浦測候所 夏至光遙拝100メートルギャラリー   冬至光遥拝隧道     

 帰途は路線バスの停車場から小田原へ出て、ロマンスカーで5時過ぎ新宿着。

Blog#110 名著の名翻訳者として柴田裕之君をNPO-AIUE「まほろば賞」に推薦するに当たって

 2024年1月18日(木)、(一社)都市環境エネルギー協会で、佐土原聡君から、尾島研OBの柴田裕之君がジェレミー・リフキン著「レジリエンスの時代」(2023.9.30 集英社)を翻訳したのですが参考になりますと推薦してくれた。

 早大で50余年前に都市環境工学講座を創設し、多くの学生たちを育てるに当たってのデシプリンとして、熱力学の法則とエントロピー論があり、近代建築や都市にあっては、生態系や災害時のレジリエンスをキーワードにしていたが、この説明はなかなかに難しかった。そんな大切なキーワードを実に分かりやすく解釈し、その本来の意味や意義についても本書は実に上手に翻訳していることに感動する。佐土原聡君の書評は「本文以上に、訳者あとがきが参考になるからすごいんです!!是非読んでやってください」であった。
 考えるまでもなく、60代の現役佳境の弟子が、著者の本の要旨を上手に表現するのは当然であることに気づき、柴田君の訳者あとがきから私の共鳴した部分を要約させてもらった。

訳者あとがきの要約:

①ジェレミー・リフキン著「レジリエンスの時代」

 私たちは「進歩の時代」から「レジリエンスの時代」へ移行しつつある。進歩に伴う弊害があまりに多過ぎるためだ。自然界からの果てしない収奪が地球温暖化や生態系の崩壊をもたらした。「進歩の考え」から「レジリエンスに満ちた適応と共存」のパラダイムシフトが必要。そのためには第一に、(IoT)を形成する。第二に、人類の適応力は予測しがたい未来にも発揮される筈。第三は、私たちが持っている「共感能力」すなわち「生命愛」、第四は、特に若い世代の「我参加す、故に我あり」で、著者には「進歩」の名の下に地球環境を破壊する深刻な実情を危惧し、その対策としての「レジリエンスの時代」を願う切迫感がある。(柴田裕之 「訳者あとがき」からの抜粋・要約)

 本書と共に、Y.N.ハラリ著・柴田裕之訳「緊急提言パンデミック」(2020年8月)の翻訳も読んで、NPO-AIUEで「アフターコロナ時代の都市環境」について論文募集し、3人に「まほろば賞」を贈呈したことから、柴田君の訳した本書の成果に対し、2024年に「まほろば賞」を贈りたいと考えた。
 実は、Blog109に、Y.N.ハラリ著・柴田裕之訳「サピエンス全史(上下)」についてを読んでを書いた時、柴田君がOBであることを気付かなかった次第。改めて柴田君の関連翻訳書をamazonから取り寄せ、以下に訳者あとがきから抜粋・要約して記した。

②Y.N.ハラリ著「緊急提言パンデミック」(2020.10. 河出書房新社)

緊急提言パンデミック
(河出書房新社、2020.10.20)

 本書は世界的ベストセラーになった「サピエンス全史」「ホモ・デウス」「21Lessons」三部作の著者Y.N.ハラリが、人類が新型コロナのパンデミックを迎えるなかで緊急に発表した見解の書で、日本オリジナル版だ。「著者はいつもながら物事を単体でとらえるよりも、むしろ広い視野を保ちながら大きな歴史の文脈の中で考察する。先ず、過去を振り返って、これが初めての感染症危機でないことを思い出させ、(人類はこのパンデミックを生き延びます)とあっさり言い切り、無用の不安を払拭するとともに、(眼前の脅威をどう克服するかに加えて嵐が過ぎた後に、どのような世界に暮らすことになるかについても自問する必要がある)」と私たちの目を未来へ向かわせる。
 世界有数の監視国家イスラエルに暮らす著者は、ネタニヤフ首相が感染防止を理由に議会の閉会を命じようとしたときに「これは独裁だ」と抗議した。著者が民主的体制を信頼していることが分かる。(2020.8. 柴田裕之「訳者あとがき」からの抜粋・要約)

③Y.N.ハラリ著「サピエンス全史」(2023.11.20 河出書房新社)世界2500万部

 本書は30ケ国以上で刊行されて世界的ベストセラーとなる。「取るに足らない動物」というのは、私たち現生人類にほかならない。その私たちが食物連鎖の頂点に立ち、万物の霊長を自称し、自らを「ホモ・サピエンス(賢いヒト)」と名付け、地球を支配するに至ったか? それは見知らぬ者同士が協力し、柔軟に物事に対処する能力をサピエンスだけが身につけたからだ。約7万年前の「認知革命」を経て「共同主観的」な想像世界に暮らせるようになって、アフリカ大陸から外へ流出した。狩猟採集民として世界中で定住し、豊かな暮らしを得たサピエンスは、1万年以上前に「農業革命」を迎えて爆発的に増加し、統合への道を歩む。貨幣と帝国と宗教という3つの普遍的な秩序を得て、500年前の「科学革命」、200年前の「産業革命」を経て、今日に至る。
 最終章で、『私たちが直面している真の疑問は、(私たちは何になりたいのか?)ではなく、(私たちは何を望みたいのか?)かもしれない。歴史を研究するのは、私たちの前には想像しているよりもずっとずっと多くの可能性があることを理解するためなのだ。』(2016.6 柴田裕之「訳者あとがき」からの抜粋・要約)

サピエンス全史(上下)
(河出文庫、2023.11.20)

③Y.N.ハラリ著「ホモ・デウス上下」(2022.9 河出書房新社)

 著者序文より『未来について書くというのは、一筋縄ではいかない。本書「ホモ・デウス(神)」では旧来の神話や宗教やイデオロギーが画期的テクノロジーの数々と結びついているときに何が起こりうるかを考えた。世界中の科学者が協力してワクチンを開発、パンデミックを止めた。だが政治家はグローバルなリーダーシップを発揮せず、プーチンは邪魔立てする者などいないとウクライナ侵攻に乗り出した。』(2022.4.27 Y.N.ハラリ)
 「サピエンス全史』では認知革命・農業革命・科学革命を転機とし、虚構や幸福をはじめとする過去を振り返り、私たちの固定観念を揺るがすサピエンスの終焉と超人誕生筋書を提示した。
 それを受け、本作はその未来を描く。サピエンスは神々のような力を持つホモ・デウスになることを目指すも、墓穴を掘る。バベルの塔はフィクションであるに対して、本書は歴史的考察である。(2018.7 柴田裕之「訳者あとがき」からの抜粋・要約)

ホモ・デウス(上下)
(河出文庫、2022.9.30)

④Y.N.ハラリ著「21 Lessons 」(2021.11.8. 河出書房新社)

21 Lessons
(河出文庫、2021.11.20)

 著者は「サピエンス全史」ではヒトが地球の支配者となる過程を、「ホモ・デウス」では人間はいずれ神となる可能性や最終的にどのような運命を辿るかについて考察した。
 本書は『今、ここ』にズームインする。各章のテーマは、先送りされた歴史の終わり・雇用・自由・平等等のテクノロジー面の難題、コミュニティ・文明・ナショナリズム・宗教・移民の政治面の課題、テロ・戦争・謙虚さ・神・世俗主義の絶望と希望、無知・正義・フェイクニュース・S.F.の真実、教育、意味、瞑想などのレジリエンス)
 11章の「人間の愚かさを決して過小評価してはならない」については、本書を読んでくださる余裕のある啓発者に共感と行動を期待している。(2019.8. 柴田裕之「訳者あとがき」からの抜粋・要約)