Blog#99 伊藤滋編著「都市計画家・伊藤滋が見た東北復興2011-2021縦断」(2023.5、万来舎)を読んで

『死者15,900名、行方不明者2,523名の未曾有の大震災から私たちは何を学び、どう備えるべきか。甚大な被害が予想される東京などの巨大都市は、今からどのような対策を立てておくべきか。本書にはそのヒントがある。』と表表紙裏面の記述通り、2011年から2021年の10年間、都市計画家・伊藤滋を代表として、白根哲也、三舩康道、関口太一、小野道生、梶原千尋、(故三武康男)さん等一行が、現地で復興に取り組む行政やUR都市機構の職員らの支援を得ての10回に亘る視察旅行の成果を読んで、有益なる記述と現場の写真の価値に瞠目する。

 都市計画家・伊藤滋自身が「東日本大震災から東京は何を学んだか」について、簡にして要を得て、実に具体的に記す。

Ⅰ.物的施設による防災能力の向上として、

① 東京湾は外洋から津波が押し寄せたとしても湾形がくびれているため、流入する海水は10のうちせいぜい2から3ぐらい。釜石や大船渡市の防潮堤の減災効果を見れば、富津沖か浦賀沖あたりに防潮堤を整備すれば、東京は津波からは安全である。

② しかし地震の津波によって、湾の内陸部で火災が起きる。気仙沼市では木造住宅地での大規模都市火災を引き起こした。(この点については、伊藤が2014年に早大に東京安全研究所を設立。その研究成果として、濱田政則著『臨海産業施設のリスク』(早大出版部、2017年)があり、濱田代表理事の下、(一財)産業建設防災技術調査会)がこの分野の研究を継続している。

③ 鉄筋コンクリート造の建物は、地震や火災、津波から高齢者の命を守るに最適であるが、3階まで上がれるエレベーターを必ず設置すること。

Ⅱ.東京都中心部からの避難について

① 自宅ですぐに避難できない高齢者のため、3階までのエレベーターを普及させることに加えて、市街地の要所要所に10分以内で辿り着けるような防災建築物(救命ビル)を配置する。

② 都心で働く人たちの多くの帰宅困難者の問題について、避難時の危険性を考えれば、急いで帰宅しない方がより安全である。携帯の普及で家族の安否も確認しやすくなった。東京都心であれば、まず命の安全は保障されている。企業は枠を越えて、帰宅困難者にとっての飲料水や食料、仮眠施設を整備することである。

 災害が発生すれば、企業は率先して問題解決にあたり、会議室や倉庫などが東京にとどまる企業の人たちの滞在場所になる。企業間協力で、一時来訪者や外国人観光客が容易に逃げ込めて、眠ることができる場所は地域コミュニティの活動に期待できる。三菱地所や三井不動産、森ビルなどがタッグを組めば、広大な外堀通りの内側が優れた避難地域になる。この地から最終的には山の手の内側に300万人規模の避難地域を整備すれば、東京は世界に誇る地震火災や津波に強い都市になる。

 以上の全ての文は本書の引用で、説得力を伴うのは、都市計画家・伊藤滋の見た北は岩手県久慈市から南は福島県富岡町まで、海添いの市町村の被災と復興の様子で、どの場所も次代へとつなげる歩みをやめていなかったことだという。私のBlog15(2021.2.17)Blog22(2021.4.23)で記した体験とも比較して、特に印象に残った本文の頁と写真を以下に列記する。

P17) 2020年完成した野田村を守る巨大な水門と防潮堤
P22) 田野畑村の羅賀荘、震災から1年8ヶ月でホテルを再開した時の写真
P24) 宮古市田老の防潮堤、2011年と2021年の比較写真
P44) 釜石市鵜住居の小中学校 2011年と2018年の写真
P53) 圧倒的スケールで嵩上げされた陸前高田市街地 2015年の写真
P66) 気仙沼漁港フェリーターミナル 2019年の写真
P68) 南三陸町志津川、庁舎を取り込んだ復興祈念公園 2011年と2021年の写真
P89) 日和山からの旧北上川 2011年、2015年、2021年の写真
P96) 名取市閖上 2012年、2019年の写真
P120)からの、指標として特記すべきは、復興の概要として、復興予算は、この10年間に約36兆円、最も多かったのは住宅再建とまちづくりに13.1兆円、次は被災自治体への交付で5.9兆円、この財源の4割は復興増税による。住宅再建やまちづくりに投下された事業の内容に関して図解しながら、各地の実態を示した資料は実に分かり易い。先にBlog15で五十嵐・加藤・渡辺共著の岩波ブックレットで示されたまちづくりのハード・ソフト面での検討結果「本当に被災者の役に立っているか、厳しく検証されるべきであろう」と評価したことに対して、本書は明確に回答した有意義な資料と思われる。

 最後に、2021年~2025年を新たな復興期間として、「第2期復興創生期間」と位置づけて、復興庁を10年延長することになり、第2期では原子力災害地域の本格的な復興・再生に向けるという。この分野では、Blog22(2021.4.23)で私のこれまでの10年について現地視察した報告はあるも、本書を手にして、これからの日本各地の原発再稼働時代の安全対策について、さらなる研究を継続したいと考えた次第である。

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